2002.2.1(Fri)

春花壇構想

 春からの花壇を彩ることになる花の種を求めて、タキイ種苗サカタのタネの最新園芸カタログを開く。一枚一枚、舐めるように写真に神経を集中させて、心のアンテナにびりびりと反応するやつを探してゆく。でもいくら素晴らしくても苗は除外だ。今回はLicの希望通り“群生”を目指そうと思うので、苗で揃えていては高くつきすぎる。

 小一時間後、私の思いはほぼ固まっていた。ヒマワリとコスモス、この2種類でいこう。手持ちの花の種と併せれば、そこそこボリューム感は出せるにちがいない。特にヒマワリは例によってサカタのタネの画家シリーズからのチョイスである。一年ぶりで再び“ゴッホのヒマワリ”に決めた。ゴーギャンやモネも悪くはないが、やはりゴッホのヒマワリが、もっとも夏に似合うように思う。
 そして今回のコスモス。“キャンパス”シリーズから、“イエロー”と“オレンジ”を、そしてオーソドックスな“ベルサイユ”シリーズから“ピンクベルサイユ”を選抜した。色は品種名の通り。イエローとオレンジが、その名のとおり鮮やかに発色するかどうかは一種の賭けだが、どこぞの通販系園芸カタログのように色調を画像処理している風には見えなかったし、サカタのタネがそんなことをするとも思えないので大丈夫だろうと思う。

 そろそろ花壇の土を、春に向けて準備しよう。何事も事前の仕込みが重要なことに変わりはないが、特に“土”はその傾向が強く現れる。手抜きは禁物である。


2002.2.2(Sat)

想像する力

 昨年末から手がけている仕事が、ようやく来週お披露目となる。最後の調整のために、休日出勤と相成った。
 みこりんも土曜日は保育園があるので、朝は一緒に送っていくのだが、仕事場と保育園では方向が正反対になる。ちょいと野暮用があったので、その中間地点で降ろしてもらい、みこりんを送り届けたのちに拾ってもらうことにした。カバン(というかデイパックなんだが)はクルマに残したままに。

 私の用事を済ませ、待つこと2分ほどでLicの運転するクルマが戻ってきた。乗り込むなり、ジャケットの開いた胸元に手袋を挿していたのを、「すごくへん」と指摘されてしまう。そ、そんなにへんかな。便利なのに。

 さらにLicが言う。私がシートに残していったカバンを、みこりんがとても不安そうに見つめていたらしい。「おとうさん、かばんわすれていった…」と心配してくれていたのだという。そうか、もうそんな心配ができるんだなと、妙なところに感心してしまう。きっとみこりんの頭の中では、カバンを忘れてとっても困っている私の姿がイメージされていたのだろう。そういう想像力は大切だ。ありがとうみこりん。帰ってきたら、さっそくそう伝えてやらねば。

先行者

ROBO-ONEに先行者を呼ぶぞプロジェクト

 例の“先行者”ネタである。実物は来ないのか、結局。動画の方も、歩いているところは写ってないし……。出し惜しみ…だったらすごいが…。


2002.2.3(Sun)

最後のVHSビデオデッキ

 昨年末から怪しいエラーコードを表示することが多くなった我が家のビデオデッキを、そろそろ休ませてやろうと思う。実質5年ほどしか稼働しなかったが、昨今の軟弱家電事情では、これも致し方ないのだろうか。BS内蔵でなければS-VHSでも2万円もあれば新品が買えるとあっては、わざわざ修理して使おうという気も起きてこない。よほど愛着のあるメカなら金に糸目は“あまり”付けない私だが、今回はそういう特別な思い入れもないので、あっさりとしたものだ。

 店頭に並んでいる製品をざくっとチェックする。カタログチェックや雑誌チェック、それにWebチェックもせずにいきなり買うというのは、私にはあるまじき行動パターンなのだが、ビデオデッキはもはやそういう部類の製品ではないのだろう。無意識のうちに、まるでパンでも買うかのように選ぼうとしている。……いかんいかん、つい値段にまけてこの1万6千円のS-VHSビデオデッキに決めてしまうところだった。いくらなんでも外部入出力端子の数くらいはチェックしておかねば。

 CSとWOWOWデコーダからの映像を入れなければならないので、入力に2系統、そしてアンプとTV用に出力も2系統必要だ。品物の上に置かれたマニュアルに手を伸ばす。外観図、外観図、と。
 そ、そうか、昨今の安価なビデオデッキは入出力ともに1系統しかないのだな(前面パネルのは除外して考えている)。2万5千円ほど出せば2系統になるが、それも入力のみで、出力も2系統となると、ほとんど選択肢がなかった。というか1つしかない。店頭にない製品にはそういうのもあるのかもしれないけれど、わざわざ注文してまで買うのも面倒だし、今日買って帰りたいので、目の前のコレで手を打つことにした。どうせ性能なぞどんぐりの背比べだろうし、あとは見た目くらいの問題だ。

 で、買ったのが東芝のA-S100、色が金ピカしていてあまり好みではないが、我慢できないほどではない。東芝よりもビクターの方が良かったが、まぁこれも耐えられないほどではない。このデッキがあと何年持つかはサイコロ振るのと大差ないだろうが、たぶん次はもうVHS方式のビデオデッキを買うこともあるまい。
 こうして最後のVHSビデオデッキが、我が家へとやってきたのである。

鬼の面

 豆は買った。床に落ちても拾って食べることが出来るように、落花生が選ばれた。だが、肝心の鬼の面がない。いつもはスーパーの豆に付属してくるのに、今回は見あたらなかったらしい。
 みこりんが鬼の面製作に名乗りをあげてくれた。保育園で作った経験があるのだという。さっそくお願いすることにした。

 黙々と作業をすすめるみこりん。折り紙と、シールと、セロテープと、ハサミを器用に駆使して、なにやら面らしきものが出来上がりつつあった。恐い鬼をリクエストしたのだが、みこりんによれば泣き鬼なんだという。色は黒。青鬼のはずだったんだが……まぁいいか。ちゃんと2本の角もあり、目と鼻と、口もある。折り紙二枚重ねで、一枚目に切れ目を入れて下地を見せるという、なかなか凝った作りだった。
 これにLicが厚紙で装着用のベルトをくっつけて出来上がり。むろん今年も私が鬼である。

 鬼の面装着。顔面がすっぽり隠れるように被ると、前がほとんど見えないことに気がついた。だがここでずり上げては怖さは半減以下だ。こうなったら……
 両手を床につく。四つ足の鬼だ。そしてカツカツと指の骨で不気味な音をたてながら、暗い廊下の向こうから、リビングへと向かった。
 手探り状態で、ささささささささっとみこりんに迫る。何かが顔面にぶつかるのがわかった。落花生だろう。みこりんが必死に投げつけているにちがいない。さらに接近する。高速に。すると、みこりんが大声で泣き叫び始めたのであった。し、しまった…、恐すぎたか…。私は猛スピードで後ずさりを始めた。四つ足のまま。そして、暗い廊下を通り過ぎ、玄関の鍵をあたふたと開けると、冷え冷えと寒さが突き刺さる屋外へと逃亡を果たしたのである。Licの放った落花生が、玄関にばらばらと落ちてくるのがわかる。鬼は、追い出された。

 そっと面を外す。それを背後に隠し、一呼吸おいてから何食わぬ顔で玄関を開け、中へと戻った。みこりんはLicにだっこされていたが、もう泣きやんでいた。鬼は去ったのだ。私はにこやかにみこりんにそう告げると、福の神を招き入れるために、各部屋を回って落花生をばらばらとまくのだった。

 みこりんは、この日最後まで、鬼の面がどこにいったのか気にしていた。夜、こっそり戻ってこないか心配だったのかもしれない。


2002.2.4(Mon)

H-IIA打ち上げ

 祝!H-IIAロケット試験機2号機、打ち上げ成功。

 2機搭載の衛星のうちの1つ、DASHの分離ができなかったようだけれど、まぁこれも試験のうちだ。原因を解明して、次回に生かしてほしいと思う。

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 2002.2.10 追記:より正確に言えばH-IIA2号機搭載のペイロードは3つである。民生部品・コンポーネント実証衛星 MDS-1高速再突入実験機 DASH性能確認用ペイロード VEP-3だ。今回分離に失敗したDASHは、主ペイロードではなく、ピギーバック・ペイロードである
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 ところで“リレー”を知らない新聞記者がいるのか。中学では技術の時間に、もはやリレーを教えていないのか?というかリレー知らないのによくロケット打ち上げの取材に来れるな。とはいえ、これに似たような光景は仕事場でもたまーにあったりはするけれど………
 まずそういうとこから地道に改善していかないとダメだ。


2002.2.5(Tue)

デモ前々日

 昨年末から取り組んでいた仕事の第二弾が、昨日より本格的なソフトウェアとハードウェアを統合しての確認作業に入っている。いくらソフトウェアのみで単体試験を行っていても、実機ハードウェアとの組み合わせで確認しておかねば無意味なことは、過去の日記でも書いたことがあるが、やはり今回もいろいろと思わぬ仕様外“仕様”に出くわすこととなった。
 その都度、修正しやすい部分で対処し切り抜けてゆく。本格的な対応は後回し。とにかく今回は時間がない。明日にはデモ当日相当の実験を、デモ会場にて行わねばならないのである。

 そして夜。あらかた対策を終えた私は、梱包作業に取りかかっていた。段ボール箱を順次封印してゆくたび、何かとてつもない“忘れ物”をしているような漠然とした不安が大きくなって行く。

 とりあえず、明日、晴れますように。


2002.2.6(Wed)

デモ前日

 梱包しておいた荷物をクルマにぎっしりと積み込み、デモ会場へと向かう。空は、いい感じに晴れていたが、(我々が地上からモニタすることになる)飛行機械の到達する空域が晴れていないことには始まらない。天気予報によれば、午後から荒れ模様だとか。気になるところだ。

 お昼前にはすべての準備を終えることができた。ただ、1つだけ気になることがある。飛行機械と着陸ポイント、そしてこのデモ会場と、3地点を結ぶ無線&有線ネットワークの要となるサーバが、変調をきたしつつあるのだった。輸送の衝撃がまずかったのかもしれない。
 なんとか明日までもってくれればいいのだが…

 そして午後、デモ予行演習が始まった。定刻通り離陸した飛行機械を、デモ会場に設置した装置でモニタする。ここまでは予定通り。飛行機械が徐々に高度と速度を上げてゆくのが、画面に刻々と表示される数値変動で把握できる。加えてマップ上を遷移してゆく飛行機械のシンボルが、飛行ルートに乗ったことを示していた。衛星電話からのデータ通信もこれまでのところ順調である。

 つい息を詰めてモニタに見入ってしまっていた。時折、飛行機械からの信号が途切れるようになっている。今日は中継用の飛行機械を飛ばしていないので、そろそろ限界なのかもしれなかった。こんなときのための衛星電話によるデータ通信なのだが、なぜかこちらもぷつりぷつりとよく切れた。高空に行くほど条件は良くなるはずだが…。高度7000フィート、ついに地上からの追跡が不可能となってしまった。

 中継用の飛行機械をうまい具合に滞空させればなんとかなる…とは思いつつも、若干の不安を抱えつつ、モニタ用のプログラムを終了させてゆく。最後にサーバの電源を落とそうとディスプレイに接続したところ、画面いっぱいに並んだエラーメッセージに愕然となった。いつからこうだったのか。アクセスログを確認する。
 どうやらついさっきまでは生きていたらしい。今日の予行演習が思わぬ耐久試験となって、とうとう引導を渡してしまったのではなかろうか。何度か再起動を繰り返してみたところ、不安定ながらも完全には機能停止したわけではないことがわかった。とりあえずうまく動いている状態で、そっとしておこう。電源を落とさずに、我々はデモ会場を後にする。

 その夜、我々は盛大に食っていた。気が早いことに打ち上げではなく、前祝いで酒盛りをやっているのである。この席上、やはりどうしても“ある機能”が欲しいというので、鍋を空っぽにして家路についたあと、黙々とソフトウェアを1本仕上げにかかる。どうやればいいのかはこれまでの実験により、だいたいの予想はついていた。問題はそのための時間がとれそうになかったことなのだが、出来ると分かっていることをやれないのは、こうして夜なべして仕事するよりもじつはストレスが溜まるのだ。

 丑三つ時、作業は完了した。ぶっつけ本番の部分もあるが、基本部分はテスト済みだ。たぶんうまく動くだろう。
 それよりも問題なのは、あと3時間ほどで出掛けなければならないことだったが、一眠りしようと思う。ここらへんに“歳”を感じつつ、みこりんの横にもぐりこむのであった。


2002.2.7(Thr)

デモ当日

 びっしりと霜のはった朝だった。今が一年でもっとも寒い季節であることを、強烈に思い出させてくれる。飛行ルートが変更になったとのメールがケータイに入っていた。これで明日もデモ会場に出掛けることが半ば決定と相成った。明日晴れれば、本来の飛行ルートでも実験を行うのである。

 会場に着くなり、サーバのご機嫌伺い。ところが症状はよりいっそうひどくなっているように見えた。ログインすることすらできなくなってしまっていたのだ。このままではいかん。奥の手を使おう。魔法の粉をさらさらさらっと……(詳しくは企業秘密なのでとてもここに書くことができない)。

 ……数分後。問題は解消していた。サーバの本格復旧は、また後日。

 定刻どおり、デモ本番は始まった。
 画面を移動してゆく2つのシンボルが、昨日電波の途切れたあたりに、徐々にさしかかる。緊張の一瞬だ。刻々と変化してゆく数値が、次の瞬間にはぴたりと止まっているのではないかという恐い予感が脳裏を掠めてゆく。
 一瞬、ぴくっとシンボルがふらつきどきりとする。だが、力強く脈打つ鼓動のように、2つの飛行機械を示すシンボルは、確実に更新されていた。中継用の飛行機械が絶妙の位置に滞空しているらしい。

 やがて着陸ポイントが“見えて”くる。地上からモニタしている2次元マップで、飛行機械が着陸態勢に入ったことがわかった。そして着陸。位置情報はほぼ固定で推移中。
 やがてケータイで連絡が入る。これから例の機能の試験を行うのだ。丑三つ時に完成したソフトウェアを起動する。1回目、失敗。2回目、成功。衛星電話を使ったデータ通信経路に、画像データを乗せて送ってきているのである。これが普通のモデム同士のデータ通信ならば、わざわざ夜なべして専用のソフトウェアを作るまでもなかったのだが、衛星電話はなかなかのくせ者であった。
 とりあえず1枚の画像データを送りきることには成功した。報道ヘリなどのように専用電波を自由に使えない場合は、しょぼい画像データを電送するだけでも一苦労なのだ。写メールなどが普及しつつある現在でも、空の上はまだまだ開拓の余地だらけ(なにしろ飛行機械上ではケータイも使ってはいけないのだから)。

 気がつけば、デモも終盤であった。成功裏に終わった部分も多いが、課題もやはりいろいろと見つかった。それに取得したデータの解析作業など、後始末もそれなりに大変だ。だが今は、ひたすらにデモが無事終了したことに安堵していた。今夜は久しぶりにゆっくりと眠れそうだ。


2002.2.8(Fri)

デモその後

 快晴。今週で一番の良い天気だった。飛行ルートは予定どおり。昨日とはうってかわって穏やかな雰囲気のデモ会場。お客さんはいない。見ているのは我々だけだ。

 寄り添うように飛行している2機のシンボル。それを3D空間に再現しているモニタでは、眼下に荒々しいまでの山々を従え、じつに気持ちよさそうである。

 やがて着陸ポイントが3D空間にも見えてきた。ゆるやかにランディング。
 あとはデータを保存してと………。

 「あ…」

 こんなところに思わぬ伏兵がいたとは。

 なぜその機能がうまく働かなかったのか、眠るまで考えていた。
 そして気付く。分かってしまえば当たり前のことだが、事前に想定していた前提条件以外の事象を排除する機能に、不足があったようだ。週明けにでもこの推測が正しいことを確認しておかねばなるまい。


2002.2.9(Sat)

“たち”の謎

 お昼寝から目覚めたみこりんは、とてつもなく不機嫌だった。もうなにもかもがイヤになってしまったかのように、大荒れだった。そんな状態でかれこれ30分は経過したかと思われる時、ふとみこりんの目がTV画面に釘付けとなっているのに気がついた。

 みこりんが真剣に見入っていたのは、釣りの番組であった。大きなマダイが釣り師の手に落ちているのを指さし、「おっきぃマグロ!」とうれしそうに叫ぶのだった。

 マダイだよと訂正しつつ、さっきまでの不機嫌はすっかりどこかに吹き飛んでしまったらしいみこりんと、魚の話題を続けていく。そのうち、みこりんが“たち”なる魚のことを口にし始めたので、私の脳はフル回転となった。

み:「“たち”がきたら、たべられてまうね〜」
U:「そうやね、“たち”は大きいもんな」(“たち”って何だ?)
み:「“たち”はこわいよね〜」
U:「その“たち”って、こーんな目をしてる?」(シュモクザメのことだろうか?と、目玉を横にひっぱるようにしてみせる)
み:「それはジャック!」
U:「ジャック?……………あぁ“お魚トランプ”のジョーカーに描かれたアカシュモクザメのこと?」(“タチ”は“サメ”じゃなかったらしい)
み:「そう。“たち”はもっとおおきいもん」
U:「そうやね、“たち”はもっとおおきいよなぁ」(太刀魚でもなさそうだし…)

 Licが、「それってシャチ?」と思わず膝を打つような問いかけをしたのだが、“たち”はシャチでもなかった。

U:「ところでそれって黒い?」(クジラのことかな…)
み:「ううん、ねずみいろ〜」
U:「イルカみたいな感じだったっけ?」
み:「ちがーう」

 結局、“たち”が何者なのか、わからずじまいであった。“たち”って、なんなんだ。


2002.2.10(Sun)

みこりんと猫

 一昨日から急に、にゃんちくんと仲良しになったみこりん。座布団並べて“バスごっこ”しようと張り切っている。…あ、間違い、“バスごっこ”ではなくて“電車ごっこ”だそうな。
 運転手はみこりん。お客は私とにゃんちくん。ここ最近は、夜もなんだか慌ただしくて、にゃんちくんとゆっくり触れあう時間もとれなかったためか、にゃんちくんの方も妙に恐縮した表情で座っている。膝に上ってくるのも、いちいち目で確認を取りながらという慎重さだった。

 でもひとたび撫で転がし始めると、やがてにゃんちくんもすっかり脱力しきってなすがまま、伸び放題に長々と全身の筋肉を伸ばしてくつろぎ始めた。そしてついに、尻尾がまるで別の生命体かのように、激しくぴくりぴくりと跳ね飛び始めたのだった。それを見ていたみこりんも、一緒に撫でたくなってきたらしい。そっと手を伸ばして尻尾に触ってみたりしている。尻尾が何故動くのか、というのをみこりんはとても気にしていたが、もしかすると尻尾とにゃんちくんは別々の存在と思っているのだろうか。

 ところでにゃんちくんを抱っこすると、前脚をぴんと硬直させるのだが、この姿もみこりんにはヒットだったらしい。しきりと自分を抱っこするように私にせがみ、同じように脇の下に手を入れて抱えてやると、そのちっこい腕をぴんと伸ばして真似してくれる。大きさ的にはずいぶんと差のついてしまったみこりんとにゃんちくんだが、こうして真似せずとも抱っこのされ方にはなんとなく共通点があるような気がして仕方がないのである。猫が人間的なのか、みこりんが猫的なのか、定かではないけれど。


2002.2.11(Mon)

ハートの日

 14日は“ハートの日”だそうで、みこりんがせっせとクッキーを手作りしている。もちろんLicに手伝ってもらいながらだが、いい具合にトッピングなんかも出来ているようだ。たぶん来年の今頃には、クッキーからチョコへとステップアップするのだろう。

 ところで出来上がりつつあるクッキーの配布先が気になるところ。さきほどから耳を集音マイクのように鋭い指向性を持たせて二人の会話を傍受しているところだが、双方のじぃじと、私の弟のところと、合計3つの届け先しか判明していない。用意されている入れ物を数えてみても、「ひとつ、ふたつ、みっつ……」しかない。おぉ、私の分はないのであろうか。

 着々と焼き上がってゆく、みこりんのクッキー。香ばしくも甘い匂いがリビング中にただよい始めた。その薄っぺらいスライスアーモンドが絶妙の焼き加減になってるのだね。で、冷えた分から入れ物へ。「ひとつ、ふたつ、みっつ……」やっぱり入れ物は3つしかない。

 これはきっと何かの間違いに違いない。こうなったら直接みこりんに聞くしかないようだ。

 「みこりん、とーさんのは?」
 さり気なく、にこやかに、でも頬の端っこがちょびっとひくついてるのが隠しきれない。
 さてみこりんのお答えは…

 「ない!」

 撃沈。


2002.2.12(Tue)

ミカンをついばむもの

 布団からちょびっとだけはみ出していた背中が、きんきんに凍るかと思えるほどに冷え込んだ朝のことである。たっぷりと降り積もったもこもこの雪をサンルームごしに眺めていると、なにやら灰色の生物の姿が目に留まった。雪景色に妙に似合うそのお姿は、ヒヨドリに違いあるまい。
 ぱさついた羽毛、ド派手な灰色、そして不気味に鮮やかな褐色の頬……、ここでひと声鳴いてくれれば風情もあっていいかもと思ったが、彼は今、食欲を満たすのに忙しいらしい。カラスよりは小型かつスズメよりは大きい図体で、さきほどからせかせかとついばんでいるのは輪切りのミカンだ。

 ミカンはウッドデッキ脇の緑色した園芸用支柱に、さくっと刺さって地上高1mあたりに止まっている。園芸用支柱は30cmほどの間隔をあけて2本並んでいて、いずれにもミカンが刺さっているのだった。しかもミカンを繋ぐように横木が通してあったりする。ヒヨドリはその横木に乗っかって、食事中。まさに至れり尽くせりだった。

 Licが輪切りのミカンを手に庭へと消えていったのが昨日の午後のこと。その成果がさっそく現れたということらしい。庭の東側にある枝垂れ桜やプラムの木には、以前から思い出したようにミカンが刺さっていたのだが、そこでは窓越しに見ることが出来ないので、よりサンルームに近い位置にたたずんでいた園芸用支柱が選ばれたということだったが、確かにこの位置は絶好の観察ポイントのようだ。
 というわけで、Licを起こしてやる。いつもはなかなか目覚めないLicだったが、今朝は驚くほどのキレの良さで起きあがってきた。そのただならぬ気配を察知したか、みこりんまで起きてきた。こりゃぁいい。毎日珍しい鳥がミカン食べに庭に飛んできたら、我が家の朝も随分と早く回り始めることだろう。

 家族揃ってそぉっと窓越しに、ミカンをついばむヒヨドリを見る。出来ればジョウビタキやらメジロやら、そういった可愛い系な小鳥にもお越し願いたいところだが、ヒヨドリが陣取っていてはそうそう近寄れまい。もう少し餌場を拡張してみるというのもいいかもしれん。ミカンだけでなく、リンゴとかも刺してやるとなお良し。冬の庭のお楽しみだ。


2002.2.13(Wed)

みこりんのクッキー

 「はい」とLicから手渡されたものは、月曜日にみこりんとLicが焼いていた香ばしいクッキーの詰め合わせだった。そ、そうか、くれるのか。隠そうとしても隠しきれない頬のゆるみがこっぱずかしい。

 だが、みこりんは怪訝な表情だった。私の手にある入れ物をしばし凝視したあと、おもむろに蓋を開け、中からクッキーを半分ほど取り除いてから、ようやく満足気な笑みを浮かべたのだった。食いしん坊みこりんである。

 クッキーは、ちょっとだけ湿気ていたけれど、そんなことはどうでもよい。みこりんの焼いてくれたクッキーというのが重要である。

 全部平らげたあとで、脳裏をよぎった後悔はといえば…

 「クッキーの写真、撮るの忘れた」

 脳みそにしっかりと今日のこの映像を焼き付けておかねばなるまい。

“ブロッグ(Blogs)”

オンラインにおける「ブロッグ」現象とは”(ZDNet JAPAN 2002年2月6日)

 “ブロッグ(Blogs)”か。記事のニュアンスだと、日本でいうところのWeb日記(あるいは単に“日記”と呼ぶことの方が多いような)になるのだろうか…と思ったのだが、「weB log」=“ブロッグ(Blogs)”発祥のサイトらしいblogger.comを覗いてみると、なんとなく違うような気がしないでもない。

 どこがどう違うのかと問われても、今はまだはっきりと「これこのようにここがこう違う」と明確に指摘できないのだが、“ブロッグ(Blogs)”とはいわゆる公開日記系の掲示板っぽい印象だ。公開日記系って何かと問われるとさらに困ってしまうのだが、古き良きディスカッションタイプの“掲示板”ではなく、どちらかというとオーナーが近況報告をオンラインで行うタイプの“掲示板”…という雰囲気だと思っていただきたい。“オンラインで書き込める”というのがポイントのような気がする。オンラインで書き込める日記用CGIは、日本でも各種出回っているような記憶があるのだが、“ブロッグ(Blogs)”という言葉を知ったのは今日が初めてだ。

 とはいえ、いわゆるWebにおける“日記”ページ(日記才人に登録されているようなタイプの日記サイト)にとって、書き込みの手段がオンラインかオフラインか、などというのは常時接続が一般的となってきた昨今ではあまり意味がないのだけれど。この“ひみつ日記”にしても、オンラインですべて処理してしまうことも可能なのだが、私の個人的趣味に合わないので、すべてオフラインで書いたのちサーバに転送という手段をとっているだけだし。

 だからわざわざ“ブロッグ(Blogs)”という新語が発生しているのが、いまひとつ理解できないでいる。ただ、“ブロッグ(Blogs)”と呼ばれるものは時々刻々と投稿されるもののようだから(違うのかもしれないけど)、“日記”というニュアンスにそぐわなくなったのかもしれないという想像はできる。となれば、ポイントなのはオンラインかオフラインかではなく、リアルタイムかそうでないかの違いなのかもしれない。あ、なんとなくこっちのほうが当たりのような気がしてきた(ここで言ってるリアルタイムとは、あるイベントについておそらく分単位、遅くても数時間単位でレスポンスが返ってくるような状況)。

 遅筆な私にとっては、応答性の良い“日記”というのは不可能に近い。だいたい今日の分を書くだけで、すでに椅子に座ってから二枚組のCDを余裕で聞けるほどの時間がかかっている。一文字あたりに換算すると………あぁ計算するのも面倒なくらい贅沢に時間を費やしているわりには、今日もノリがいまいちである。軽やかに指が動く日のほうが、まだ読みやすいものが書けているような…。というわけで、今日はそろそろお仕舞い。


2002.2.14(Thr)

ジャックに好かれるみこりん

 先週末あたりから、トランプ熱にとりつかれているみこりんが、今宵も「トランプしよう」と誘ってきた。時刻はすでに22時を過ぎたあたり。いまからフル装備の神経衰弱をやるには、少々きつい。というわけでババ抜きと相成った。

 Licも加えて3人でやれば、ババ抜きはじつに具合がよい。今ではみこりんも自力でカードから同じ札を捨て去ることができるようになったし、残り札は一人あたり5〜6枚といったところだし、この調子ならものの5分もあれば勝敗は決するだろう。

 だがここでみこりんの告白タイム。
 「みこりん、ジャックあるよ」
 みこりんの言うジャックとは、もちろん“ジョーカー”のことである。あのアカシュモクザメの描かれたヤツだ。

 これで4日連続みこりんにジョーカーが来ているような…。すっかりジョーカーに好かれてしまったらしい。
 まだジョーカーの意味がわからなかったころは、それはそれはジョーカーを好んでいたみこりんなので(シュモクザメとイバラタツという絵柄に惹かれたのだろう)、昨日まではそれほど気にしてはいなかったみたいだけれど、さすがに今夜はちょびっとだけいやそうな雰囲気が伝わってきた。まぁしかし、これも勝負なのでおいそれと引き受けるわけにはいかないなぁ。

 なんて思ったのもつかの間、ジョーカーは私とLicとの間でさっきから行ったり来たり。そうそうにみこりんの手を離れているのだった。みこりん一番。
 何度目かの「上か下か」を繰り返した後、勝負は決まった。アカシュモクザメは、今宵はLicを選択したようである。めでたしめでたし。


2002.2.15(Fri)

続“たち”の謎

 気になる“たち”の続報である。みこりんによれば、スヌーピーランドにいたらしいことが新たに判明しつつある。スヌーピーランドとは、USJのみこりん的解釈なので、つまりそこにいた“恐い魚”とは、やはり“ジョーズ(ホオジロザメ)”なのではなかろうかという推測が成り立つのである。いかにも恐そうだし、大きいし、みこりんの言う“たち”の特徴の多くを、“ホオジロザメ”は備えているのは間違いないのだが、まだ決定的な確証を得るには至っていない。

 みこりんはこれまで“ホオジロザメ”のことは、正しく“さめ”だと認識していたというのが、とてもひっかかっているのである。本当に“たち”=“ホオジロザメ”なのだろうか。悩ましい。じつに悩ましいではないか。考え始めると、夜も満足に眠れぬほどに。ところがついに私は、“たち”の謎を解明する上で、これ以上ないというくらい重要な情報の入手に成功したのである。

“たち”の図

 みこりん直筆による“たち”の図だ。ついでに“シュモクザメ”(みこりん的には“じゃっく”ということになってる)の図も書いてくれたので、おまけでつけておこう。

 “たち”………なんて可愛いんだ。ますます謎は深まったような気がする。


2002.2.16(Sat)

メジロの訪問

 休日の朝は、心ゆくまで寝倒そう。そう心に決めて、ぬくぬくと布団に丸まっていたところへLicの声がかかる。めじろ?メジロが来ていると?庭に?
 活きのいい自動機械が起きあがったかと思うような、素晴らしい起床であった。瞬間起動である。そのまま敷居を踏み越え、リビングへ。そっとレースのカーテン越しに、窓の向こうを覗いてみると…

 手のひらサイズの鶯色した小鳥が1羽…、いや2羽だ、メジロは少し距離を置いて2羽が枝に留まっていた。つかず離れず、互いが互いをいたわるように。ペアペアなのだろう。
 メジロ達は、そのピンセットのように細い嘴で、小振りな温州ミカンをちまちまとついばんでいた。と、その時、ダークな影がばさばさと舞い降りる。むぅ、やはりきたかヒヨドリ君。

 輪切りのミカンは、一瞬にしてヒヨドリのものとなっていた。メジロ達は蹴散らされてしまったのだろうか。つつつっと視線をプラムから順に移動させてゆくと…、いたいた、枝垂れ桜の上の方に2羽揃って避難しているのが見えた。朝陽を浴びて、さきほどよりも目の周りの白い輪っかが、よりくっきりと栄えている。まさに“目白”だなぁと、当たり前のように納得する。…ん?でも“目白”というと、目玉が白いようなニュアンスもあるかな…。白い目の小鳥か。瞳が針でついたような小さくも鮮やかな赤とか。

 Licがリンゴを4等分して、庭へと下りていった。
 午後には、ほぼすべての果物が、皮へと変貌を遂げていた。目白の夫婦は、夕方まで庭周辺で頻繁に目にすることが出来た。巣を構えてくれたら面白いのだが。

まどろみん

 気力も充実してきた午後3時、実家用の新型PCの不具合調査に取りかかる。筐体を開け、臓物をずずずっと線が繋がったまま取り出してと。
 まずはメモリを取り替え、起動チェック。やはり「ぴ」とも言わず、起動失敗。ハードディスクはきちんと動いてることをすでに確認済みだから、あとはやっぱりCPUか。昨年、AMD Duron 750MHzが3千円ほどで売りに出されていたのを、たまたま買っていたのがこんなところで役に立とうとは。

 CPU換装。そして起動。なんだかやけに時間の進みが遅いような気がしたが、やがて小さく「ぴ」と鳴くのを確認。正常な起動だ。その後も連続して何度か起動と電源断を繰り返したが、まったく問題ない。快調なうちに、OSのインストールでもしておこう。
 ところがここで新たな問題が…

 対策を考えているうちに、突如沸き起こる猛烈な眠気。妖怪“まどろみん”が背中にぴたりと寄り添っているかのように、意識がぐいぐいと下の方へと沈んでいくのがわかる。な、なんじゃぁこりゃぁ!内なる叫びは、ろれつの回らない意味不明な叫びと変わり、そのままもんどり打って布団へと倒れ込む。
 ここで、ぷつりとスイッチが切れた。

 こうして土曜の夜は、あっというまに消え去ったのだった。


2002.2.17(Sun)

謎の書き置き

 目覚めると、まだ土曜日だった。だが、もう少しで日付が変わる。薄暗い寝室に、静かに流れる2つの寝息。みこりんも、Licも、寝てしまったらしい。私はなんとなく重い頭を抱えて、ゆっくりと起きあがった。あの恐いほどの睡魔は、もはや、いない。

 リビングの灯りをつける。カウンターの上に、なにやら書き置きがあった。パンの袋に洗濯ばさみで留められているのだ。鮮やかなピンクのサインペンで書かれたそれには、こんなことが書いてあった。

“書き置き”の図

 なぜ“め”、なんだ。


2002.2.18(Mon)

ロケットを見に行こう!

 『宇宙へのパスポート―ロケット打ち上げ取材日記1999‐2001』(笹本祐一 著)

 一度は月に行ってみたい!と心のどこかで熱き思いを抱いている人ならば、すでに購入済みであろう。私も当然のごとく買ってきているのだが、まとまった時間がとれずに部分的にしか読破できていない。が、それでも「いざ行かん、種子島」な気持ちを新たにしているのである。こいつはいい。……表紙はちょっと私の趣味からはかなり外れているのだが、贅沢は言うまい。

 平成14年度のH-IIAロケット打ち上げは3回。やはり夏場が狙い目か。みこりんにもぜひ生でロケット打ち上げを見て欲しいし、何より私が見てみたい、いや、“見る”などという生やさしいものじゃなくて“体感”したい。むさぼるようにロケットを堪能したいものである。


2002.2.19(Tue)

いつのまにかそんな季節

 ちりちりとさっきから頬の上を、何か毛の長い生物が這っている……ような気がする。おまけに瞼の裏側に、無数の異物感。瞬きするたび、ごろごろとヤスリで削れるように、粉々が付着しているような気色悪さが残る。
 ま、まさか…

 花粉の季節到来。

 甜茶を煎れねば。


2002.2.20(Wed)

隣の部屋からぱたぱたと

 寝床にLicの姿がないのを、みこりんが気にしていた。絵本を読み終わり、照明をすべて落とした後も、なんだか落ち着きのない雰囲気である。もぞもぞと布団の中で何度も身体の向きを変えているみこりん。

 やがて、隣の部屋で「ぱたん」という音がする。そして“ぱさぱさ”と歩き回るスリッパらしき気配が響いてきた。
 みこりんが暗闇できらりんと瞳を輝かせたらしい。こちらに向き直り、「かあさんだ」と弾んだ声で言った。だが、ここで油断してはいけない。罠かもしれないのだ。そう、みこりんに教えてやる。「ヤツが来たのかもしれん」

 この夜、寝る前に、何かの拍子で“宇宙人”の話題になっていたのである。“宇宙人”は宇宙にいるから会えないねとみこりんが言うので、いやいや庭に降りてくる時もあるんだよと、そういうことにしてあったのである。だからみこりんもすぐに私の言わんとしたことが理解できたらしい。でもにわかには信じられないのか「ちがう、あれはかあさん」なんて強がりを言ってみたりするみこりんであった。でも、その手は私の腕をしっかと握っている。本当にあの音が“かあさん”のものなのか、みこりんも不安になってきたのだ。
 二人して、じっと気配を断ち、聞き耳を立てる。足音は、何度か向きを変え、遠ざかったり、近づいたりを繰り返していた。

 とその時、突然、襖が「がらっ」と開いた。みこりんが「びくっ」と腕に力をこめる。逆光の中、顔をにゅぅっと覗かせたのは……Licだった。
 まるで申し合わせたかのような出現の仕方だ。なんて心臓に悪い。みこりんがLicの姿を認めて、けたけたと笑っていた。

 これでやっと落ち着いて眠ることができる。


2002.2.21(Thr)

化石の荒野

 眠りに落ちる直前の、ほんの数分間、みこりんがこっそり囁いてくれるお話には、時々興味深いネタが潜んでいることがある。
 みこりんは今日、化石を拾ったのだという。しかもそれは偶然ではないらしい。保育園ではよく“お散歩”に出掛けているのだが、その目的地が今日は化石の宝庫だったというのだ。

 “化石”は、山頂に“ごろごろ”していたらしい。ぴかぴか光っているのもたくさんあったという。なにやら怪しげな“化石”である。
 みこりんが“化石”という言葉を知っているのは、毎週欠かさず観ている『鉄腕DASH』の“恐竜発掘 project”によるところが大きい。ただ、化石という言葉は知っていても、いったいそれが何なのかは、たぶんまだ理解できていないとは思う。…思うのだが、みこりんの口からこれほどはっきりと“化石”という言葉が出てくると、じつはもう何もかもお見通しなんじゃないかという気がしてくるので恐ろしい。年少組さんの幼児同士で、「この“かせき”はなかなかいいね〜」なんて会話があったりしそうだ。

 ぴかぴか光る“石”がたくさん落ちてたんだろうか、という予感もするのだが、それならば1つや2つは持って帰ってきそうな気がする。枝のきれっぱしとか、枯れ草とか、お散歩の途中でみつけた“宝物”は、持ち帰らずにはおられないみこりんが、なぜか今回は“化石”を持って帰ってこなかったのである。これも謎を深める一因になっていた。いったい山頂には何が転がっていたのだろう。幼児達にしか見えない何か、だったのか。

 いずれ確かめてみたいものである。


2002.2.22(Fri)

空焚き注意

 まだまだ冷え込む夜には暖房器具が欠かせない今日この頃だが、最近はストーブと石油ファンヒーターを同時に作動させていることが多い。むろんストーブの上にはヤカンが乗っていて、しゅんしゅんと蒸気を吹き上げているのだ。石油ファンヒーターにはこの技が使えないのが難点といえば難点。

 ところでそのヤカンが、うっかりしてるといつのまにか“ぴたっ”と静かになっていることがある。水分が蒸発しきって、かんかんに焼かれている状態だ。こういうときに水を足そうと、ヤカンを流しまで持っていき、蓋を開けて水道の水を注ぎ込んだら……なかなか痛い思いをするので注意が必要だ。毎年同じ失敗を繰り返して、今年も3度目くらいにようやく思い出していた。

 空焚き状態のヤカンに水を足すには、本当は自然冷却してからのほうがいいみたいだけれど、私はつい横着して注ぎ口から水を足してしまうことが多い。これならば瞬時に沸騰する蒸気で手を焼くこともないし…。でも、たま〜に流し台に捨て置いてあるラップ類に貼り付かれて余計な手間が増えることもあるので、油断大敵。


2002.2.23(Sat)

チューリップを植えてみる

 いきなり“春”かと思うような陽気である。久しぶりに庭土と戯れつつ、スコップ片手に木イチゴやらプラムやらの足元に有機肥料を施してみた。花壇の一角ではすでにアネモネの細かく切れ込んだ葉っぱが展開しつつあり、はやくも地中では根っこ達が旺盛な活動を始めているようだ。みこりんがプラ鉢に植えたクロッカスも、そろそろ花芽が見えるのではないかというところ。でもみこりんには花が咲くということよりも、葉っぱの大きさの方が気になるらしい。事あるごとに、自分のクロッカスと、私が植えたチューリップ&ヒヤシンスと見比べて、どちらがどのように大きいかを報告してくれるのだ。みこりんにはギガンチュームとか、派手に大きくなるやつのほうが向いているのかもしれん。

 さて、球根といえば、昨年秋に掘り上げたまま、ずっと保管していたものがある(うっかり植え忘れていたというのは秘密だ)。チューリップ“バレリーナ”の球根達なのだが、ネットに入れて吊していた場所がサンルームだったというのがまずかったようで、先端からなにやら白っぽいものがちょろっと見え隠れしているのだった。根っこは出ていなかったけれど、このまま発芽するにまかせていては、いずれ消耗してダメになってしまうだろう。さっそく土の中に埋めてやることにする。
 場所をどこにするか少々迷ったが、結局ウッドデッキ前の花壇に決定した。地植えで数年はほったらかしにできそうな場所ということで、端っこに決めた。数年かけて徐々に太らせていけば、そこそこ見られるようになるのではないかなという淡い期待を抱きつつ。

 ところで鰹菜と青梗菜、どっちがヒヨドリにとって旨いのか、といえば、後者らしい。花壇と菜園の隙間で育てていた2種の菜っぱは、一方が盛大に葉を茂らせつつあるのに、あとのは見るも無惨に食い散らかされているのだった。去年は大根の葉っぱを狙われたが、こちらはまだ大丈夫。…ヒヨドリの好みというよりは、個体差なのかもしれない。

 なんとなく、雪はもう降らないんじゃないかと思う土曜の午前中のことであった。


2002.2.24(Sun)

温泉街にて

 山々に囲まれた斜面の上に、唐突にその街並みは出現した…ような感じだった。わりと歴史のある温泉街ということで、道もかなり狭く、いきなり一方通行があったりして驚かされつつも、いつもは方向音痴なこの私に、このときは天啓のごとくはっきりと脳内に明確な2次元マップが形成されていて、迷うことなくドライバーLicを本日の宿泊施設へとナビゲートすることに成功したのだった。

 一息ついたら、さっそく湯に浸かってみる。屋上に新設された風呂桶は、いかにもとってつけたような具合で風情はあまりないのだが、一人1万を切る値段設定の施設ゆえ、贅沢は言えまい。それにしても吹き下ろしてくる風が強い。不機嫌な一反木綿のように、ばたばたと簾が宙を乱舞し、山頂からの冷気がむき出しの肌に突き刺さる。だが、湯の中はかっかと煮立つほどに熱く、そのエネルギーは凍えた外気に打ち勝つに十分なものだった。
 みこりんもすっかり茹で上がって、いい色に染まっている。私はうっかり肩まで浸っていたせいで、少々頭が“ぼぅっ”としていた。これ以上ここにいたら、たぶん倒れる…というちょうどいい頃合いで、本日1回目の入浴タイム終了。

 夕食までほどよく時間が余っていたので、散歩に出かける。通りすがりに、川辺に掘られた露天風呂を観察したところ、意外に盛況なのに驚く。繁華街は目と鼻の先なのに、なんと大胆な。むろん混浴なのでお姉さん達も入浴されていたのだが、どうやら水着着用のようだった。…無理もあるまい。

 さて、観光地にありがちな“みやげもの屋さん”を2軒ほどひやかしにぶらついてみる。みこりんは例のごとくミニカーセットやら夜店で売ってそうなチープな玩具の虜であった。こうなってしまったみこりんは、容易なことではびくとも動かない。だが、瞳を爛々と輝かせて展示台に貼り付いているみこりんを動かす魔法の呪文が、じつはあるのだ。
 それが「ばるす」ではないことは確かだが、ここでばらしてしまってはみこりんを遠隔操作されかねないので、秘密にしておこう。

 *

 夕食後、今度は屋内の風呂に浸かってみることにした。ほどよく広い浴場に他に人影はなく、のびのびと脚を伸ばしてぷかりと浮かんでみたり。………「む!」女湯との境界線に裂け目を発見。天井付近に貼られたアルミの目隠し板が、壁際からべりべりっと50cmほど剥がされているではないか。大胆不敵。こんなわかりやすい覗き穴がでかでかと開いているのに、そのまま放置されているとはこれ如何に?まさかついさっき開けられたとも思えないが。罠なのかもしれん。
 ぷくぷくと鼻の下まで湯に浸かってたっぷり汗をかいたところで、浮上する。肌がつるつるになるという謳い文句どおり、たしかに“つるつる”になったような気がする。Licによれば、その効果はすぐになくなったということなのだが、この夜、私は布団の中で手足がつるつると滑りまくってなかなか寝付けなかったことをここに報告しておこう。


2002.2.25(Mon)

山肌のエスカレータと古びた人形達

 朝もたっぷり温泉に浸かり、すっかり茹で上がったところで、チェックアウト。“パラダイス”に出会えるかもと、付近の観光施設に立ち寄ってみることにする。地図によれば、そこそこ距離があるような印象だったが、なんというか一瞬で目の前に出現したので少々焦る。なにもかもが、こじんまりと斜面にまとまっているのかもしれない。

 古い民家の展示が主たるものだったが、なぜか敷地内には“かえる神社”なんてのもある。何故にカエルなのかは、結局謎のままだったが、陶器の絵付け体験コーナーで、みこりんが皿の裏側にカエルの絵をでかでかと描いてくれたこととも、何か関係があるのかもしれない。この場所は、じつはカエルとの因縁が深い場所なのでは…

 そんなみこりんが目ざとく見つけたのが、斜面の上の方に併設されたアスレチックだった。ありがちな巨大滑り台を筆頭に、ロープ渡りとか木造遊具などがひっそりとたたずんでいた。今日が平日ということもあり、他に子供の姿もほとんどなく、じつに静かなモノである。

 急な斜面を登って巨大滑り台の上まで行くのはなかなか骨が折れそうだったが、そんな心を見透かされたかのように、エスカレーターがででんと待っていてくれたのだった。ぴたりと静止したままのエスカレータは、簡単なビニールの屋根があるだけでほとんど剥き出し状態のまま急な斜面を上へと伸びていた。錆び色に染まった金属製のそれは、周囲の木々やら自然の造形美の中にあって、奇妙なアンバランス空間を形成しているかのようだ。
 この機械は、本当に“生きて”いるのだろうか?そんな疑問をつい感じてしまうほどの、静寂であった。

 じつは故障してたりして…と思いつつ、まず私が一歩、進み出る。センサの目に見えぬラインを横切った瞬間、突然とてつもない重低音が地の底から轟き渡り、マシンに火が灯ったのだった。このエスカレーターは活きていた。

 油の切れかかった嫌な軋みを発しつつ、私は上へと運ばれつつあった。そのとき、下で見ていたみこりんが感極まったか、大絶叫を始めた。抗う術を知らぬ子供独特のポーズで、両手をひきつらせたように体の左右にくっつけ、これ以上ないくらいの大きな口を開いて泣いている。もちろん私は、エスカレーターを逆走して飛び降り、みこりんを抱き上げたのだった。
 あとでみこりん自身の口から語ってくれたことによれば、突然動き出したのが恐かったらしい。音に驚いたのだと思っていたのだが、そうではなかったようだ。

 結局、巨大滑り台までは自力で斜面を登ることになった。
 ここまで来て、Licは再び麓へと取って返す。みこりんの滑りを画像に収めるためだ。しかしなかなか準備よしの連絡が来ない。後から来たカップルに先を譲り、さらに待つこと数分間。…OKの意思確認をしたのち、尻の下に専用のマウスパッドみたいなのを敷き、みこりんを膝にのっけて、いざ発進。
 100メートルはあろうかという滑り台は、なかなか急角度なスパイラルコーナーがあったりして、侮り難いシロモノだった。しかもみこりんが怖がってはいかんと、両脚で側板を圧迫ブレーキングしつつの滑りだったためか、えらく時間を食ってしまった。おまけに床面の無数のローラーが醸し出す細切れの微振動に、だんだん車酔いのような気分になってくるし、ますますもって侮り難し巨大滑り台である。
 これもあとでみこりんに確認したところ、もっと速くてもよかったという。ほんまかいな。

 さて、そんなみこりんがお昼ご飯に怒っていた。出てきた皿には、マグロのお刺身がなかったのだ。みこりんは口先をひよこのように突き出しながら、メニューの写真を指さしてみせるのだった。たしかにその小皿に乗っているものは、薄ピンク色した肉片……のようなもの。マグロのお刺身……に見えなくもない、が…
 「みこりん、それは赤カブの漬け物なんだよ」
 ほら、これがそうだと目の前の盆の一角を指さしてやるのだった。
 じぃ〜っと赤カブの漬け物が乗った小皿を凝視するみこりん。何度か反論しかけたみこりんだったが、最後にはメニューの写真に顔をくっつけるほど近づけて確認し、そして、ようやく納得したらしい。しぶしぶながらも箸を伸ばし、ついばむようにして、それを食べた。少々塩辛かったらしい。
 それにしてもみこりんがこれほどマグロの刺身に執着するとは、意外だった。

 腹も膨れたところで、散策に戻る。移築展示されたという古い民家の中では、何もかもが時間が止まったかのようであった。年輪の浮き出た板の間が、なんとも心地よい雰囲気を醸し出していたが、一瞬で塵に還りそうなくらい虫食いだらけで輪郭の曖昧な古びた農具やら、元の色彩も定かではないほど使い込まれた生活道具には、言いしれぬ濃厚な気配があった。それは“畏れ”といった感覚に近かったが、圧倒的な時間の積み重ねによってのみ現れる、“存在感”といったものかもしれない。
 そんな中、古い人形の展示コーナーがあった。戸棚に所狭しと並べられた古風な人形達に、私は奇妙な既視感を感じていた。どこかで見たことのある顔形、しかもそれは1つだけではなかった。少なくとも4体ほどの人形に、私の記憶は反応を示している。不可解であった。
 あり得るとすれば、父方か母方の実家で、幼い頃、出会っているのかもしれない。民芸品ゆえ、同じような人形がどこかにあってもおかしくはない、とはいいつつ、双方の実家と、この地域では直線距離にしても400キロ以上離れているのだが。

 やがて我々は、夕暮れ前の、ひなびた日の光を浴びつつ、山里を後にするのだった。


2002.2.26(Tue)

泥落とし

 ゆったりと休日を過ごすつもりだったが、あまりの小春日和についついウッドデッキの掃除などを始めてしまう。冬の間、みこりんがウッドデッキで“泥料理によるおかあさんごっこ”をやった名残が、そこここに手形足形等となって貼り付いているのだ。

 今ならば、丸洗いも可のような気がする。水温む季節……には、まだ早いが、今日は特別に気候がよい。ついでに花粉も絶好調。目玉が痒い。

 まずはとっちらかったみこりんのオモチャを片づけて、と。平らに戻ったデッキの上に、ホースでじゃばじゃばと水を掛ける。だがこれしきで落ちるようなヤワな泥汚れではなかった。雑巾がけすること2回。さらに水流“強”で、2往復、これで、ようやく泥の痕跡が和らいだような具合だ。

 すっかり水浸しになったデッキの上で、はたと気付いたことがある。ひょっとして、このデッキの下では、あのヒキガエルが冬眠しているのではなかったか。木材の隙間からも水はどんどん流れ落ち、下の土も少なからず濡れてしまったことだろう。昼間はまだいいとして、このまま夜になり、気温もぐぐっと下がってしまって大丈夫なのか。なんだか心配になってしまったが、覆水盆に帰らずだ。無事を祈るしかあるまい。

 *

 この夜、みこりんのお雛様が座敷にお出ましとなった。


2002.2.27(Wed)

古びた硬貨

 午後のティータイムなんて優雅なものではないが、喫煙の習慣を持たない私にとっては自販機の紅茶一杯でも、ちょっとした休息には十分だ。財布を尻のポケットにねじ込んで、階上のフロアまで歩くこと数十歩。
 ユニマットのやたら幅広い自販機には、これでもかとばかりにコーヒーの銘柄が並んでいるが、あいにくコーヒーには用がない。私の選択肢たりうるのは、今のところレモンティー、ただのティー、そしてココア、この3種くらいである。コーヒーの充実ぶりに比べると、紅茶のそれはあまりに少ない。この自販機の銘柄別売り上げランキングを知りたいような気もしつつ、小銭を1枚、2枚と投入してゆく。

 十円玉で7枚。今日はレモンティーにしておこう。と、思った瞬間、「かたり」と最後に投入した十円玉が戻ってきた。「ふぅ」と老人みたいな溜息なんかつきつつ、腰を折り曲げて返却ボックスの十円玉を取り出し、再度投入。レモンティーのボタンを押すべく指をつつつぃっと動かそうとした瞬間、……「かたり」十円玉は、再び落下してきたのだった。

 戻ってきた十円玉を、手のひらに乗せてみる。以前、間違えて5円玉を投入したときに、こんな風になったことがあったのだが、今回は紛れもなく十円玉に間違いない。多少汚れがひどくて字面が読みにくくなってはいるが、それが何か問題になるとは思えないが…。
 親指と人差し指でつまみ上げてみる。そして私は状況がわかったような気がした。

 側面にくっきりと刻まれたぎざぎざの列。私は手の中の“ぎざ十”を、財布に丁寧に戻してやる。
 昭和二十七年産の十円硬貨。どれほどの人の手を渡ってきたのだろう。硬貨コレクターではないけれど、なんとなく使うのが惜しいような、そんな気分になってしまう。案外、古いモノに弱かったのかと、今更ながらに気が付いた午後のひとときであった。


2002.2.28(Thr)

過ぎゆく季節の中で

 風呂上がりでいい具合にあったまっているみこりんが、歯ブラシ片手に言うことには、「みこりん、おおきくなったら、おさしみきるひとになりたい」のだそうな。
 “お刺身切る人”と妙に具体的なのは、ちょうどTVでスーパーの刺身盛り部門のことをやってるからだ。おばちゃんがハマチをさくさくと鮮やかに切りさばいてゆく映像に、みこりんの視線は釘付けだった。

 以前から、釣り番組にみこりんが興味を示していることは知っていたが、その興味の対象が同じ魚は魚でも、調理する方にまで広がっていたとは。しかも焼き魚でも煮魚でもなく、生魚の刺身をご指名だ。おそらく食べる方でも刺身好きというのが影響してるにちがいない。

 鉄は熱いうちに打て。夏のキャンプでは釣り上げた魚をその場でさばく、というのをやってみせてやろう。ついでに降るような星空で、宇宙にも興味を持ってもらうのがいい。この辺りじゃ、夜空もなんだか寂しい限りだが、ちょいと500キロも南下すれば、それはそれは恐ろしいまでに賑やかな星々が待っている。…500キロも移動する必要はないのかもしれないが、やはり多少なりとも土地勘のあるところのほうが何かと都合がいいというものだ。

 気が付けば、みこりんも今年で5歳。着々と歳をとってゆく自分。猛烈な焦燥感のようなものに襲われることも二度三度四度…と、自然にその回数も増えてゆく。なんとかしなきゃと思いつつ、今日もただ時間だけが過ぎてゆく。特にこの時期は、いろいろと考えてしまうことが多い季節だ。


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