2003.2.1(Sat)

コロンビア帰還せず

 夜の臨時ニュースを知らせる、あのビビッビビッという警報音はじつに心臓に悪い。今回もまた、よくない知らせだった。“スペースシャトル帰還途中、無線交信途絶える”…、とっさに爆発のイメージが脳裏をよぎった。17年前の『チャレンジャー』爆発の映像が、じわりと記憶の底から甦る。今回は帰還途中だ。大気圏再突入の失敗だろうか…。
 さっそく情報収集にとりかかった。

 こういう場合にまず見に行くべきは、SAC掲示板か、野尻ボードである(まっさきにNASAのサイトを見に行ったが、さすがに手が回ってはいなかったようで…)。やがて徐々に関連サイトへのリンクが示され始め、画像をCNNで見る事ができた。まさに四散である。複数の部分に別れて落下してゆく様が、捉えられていた。これが本当にスペースシャトルであれば、機体はまともに残ってはいまい。脱出装置が作動したのかどうかが気にかかるが、高度6万3千メートル、マッハ6という状況下では………。
 やがて地上波でも特集が流れ始めた。きらきらといくつかの光点に分離しながら落ちてゆく映像に、腹の奥底に冷たいモノが生じたような気がした。あぁ『コロンビア』が、壊れてゆく…。初めてスペースシャトルが打ち上げられた22年前のあの夜、私がまだ中学生の頃だ。TVの中継を食い入るように見つめていた。いわゆるロケットの形状をしていない宇宙船ということで、私はとても興奮していたのを今でもぼんやりと思い出せる。時は流れ、みこりんがすやすやと眠るその向こうのTV画面で、あの機体が今、多くの宇宙飛行士と共に、光の中に消えていった。

 原因究明に、またどのくらいの歳月を要するのだろうか。いずれにしても、宇宙ステーション計画に遅れが出ることは必至だろう。独自の輸送手段(宇宙ステーションへの運搬と、人員輸送)を持たない日本は、こういう時にじつに弱い。このまま“きぼう”がお蔵入りなんてことになったりした日には、悔しすぎて遠吠えするにちがいない。私の初仕事であるところの“ソフトウェア部品”は、絶対に宇宙に行ってもらわなければ困るのだ。その打ち上げを現地で見る、というのが私の秘かな野望でもある。これを機会に日本でも有人宇宙機なり大型輸送機なりを開発するだけの甲斐性があればと思うが、事なかれ主義の官僚支配の現状ではなんともなるまい。あぁぁ、なんとしてくれよう…


2003.2.2(Sun)

数字のカタチとサンダーバード

 とんとん、という規則正しい縄跳びの音に、私はいつのまにか眠りへと誘われていたらしい。昨夜は、明け方近くまでコロンビア空中分解のニュースを追っていた。睡眠不足だったことは間違いない。

 遠くで、みこりんの声を聞いたようなきがする。何かを見て欲しがっている雰囲気だったが、瞼は糊をべったりと塗りたくったように眼球へと貼り付き、微動だにしない。それでも苦心の末、3ミリほど開けることに成功した。ぼやける視界の中央に、みこりんの握っているモノがあった。折り紙のようだ。
 「これ、さんだーばーどいちごう?」と、みこりんは問うていた。サンダーバード…、1号だって?私は虚をつかれていた。みこりんが折り紙でサンダーバード1号を作ろうと思い立つとは、いったい誰が予想しえたであろうか。
 みこりんの手にある折り紙は、そう言われてみればなんとなくロケットか飛行機のような翼があるようにも見える。もっとじっくりと見たかったが、この時は睡魔の力が好奇心を押さえ込んでしまった。「…う、うん、そうだよ」そう答えるのが、精一杯。私は再び深い眠りへと落ちて行った。

 なぜみこりんがサンダーバードを知っているのかといえば、答えは簡単、スーパーチャンネルで再放送をやっているからだ。あのメカは、時代を超えて現代においても、有効なことは言うまでもない。みこりんが興味を惹かれたとしても、不思議ではなかった。でも、なぜに1号だったのか。私は2号の方がどっちかというと好きなんだが、みこりんはオーソドックスなスタイルが好みなのかもしれない。
 そこで夜のお風呂タイムに質問してみたのだ。どの機体が一番好きなのかと。みこりんが何と答えたかといえば、「3!」だった。サンダーバード3号…、この機体をみこりんは見た事なかったような気もするが…。そう思いかけた時、続けてみこりんは言った。「あのおりがみ、“1”のかたちみたいだったでしょ?」………、な、なるほど。
 サンダーバード1号は、たしかにまっすぐだから“1”のように見えなくもない。でも、3号は、“3”とはちょっと違うような…。単に数字の“3”が好きなだけなのかもしれないが、いずれみこりんもわかってくれることだろう。1号、2号、3号というのは、数字のカタチを模したものではないのだと。


2003.2.3(Mon)

鬼の面

 恵方は南南東、姿勢を正し、太巻きを無言で一気食い。その様子を、みこりんは不思議そうに見ていた。みこりんが話し掛けても、私もLicも黙々とひたすらに咀嚼するのみ。謎すぎる。でも、勧められるまま、みこりんもちょこんと正座して、太巻きに手を伸ばした。そしてかぶりつく。もぐもぐと。ワサビ抜きなのでみこりんにも安心だ。

 夕餉が終ると、豆まきである。回収の容易さを考慮して、小袋に分けられた豆をまく予定だったはずなのだが、なぜかLicは普通の豆も買っていた。なんでも、成田山で祈祷済みなんだとか。なんだかとってもアヤシイ気配ぷんぷんだが、まぁいい。その方が豆まきっぽいし。
 豆は、みこりんがあらかじめ折り紙で作ってくれていた箱に入れられ、Licとみこりんの手に渡った。鬼の面は、今年は既製品。それを私の顔面に貼り付けたかと思うと、突然、ばらばらと豆の雨あられ。は、早すぎる。
 いったん退散し、体勢を整え直すと、野獣の姿勢で猛然とみこりん達の方へ向かったのである。

 たちまちパニックに陥るみこりん。まだまだ“鬼”が怖いみこりんなのだ。それでも追っ払おうという気力はあって、豆をばっさばっさと投げつけて来る。“鬼”はしゅるるるるるっと廊下へと後退、暗がりから様子を伺う。
 面の目の位置が悪くて、視界不良なところが却って現実感を喪失させ、“鬼”はよりいっそう鬼らしく、振る舞えるような気もする。やがてLicの背中に隠れるようにして、みこりんが廊下へと入ってきた。ざざっと突進、逃げ惑うみこりん。手当たり次第に豆をつかんで投げているような雰囲気。

 さて、そろそろ撤退だ。玄関まで一気に下がり、くるりと振り返ってやった。両手をわさわさと動かしてやると、面白いほど怖がってくれるのでまた楽し。そのまま後ろ手にガチャリとドアを開け、するりと表へと抜け出した。閉めたドアの向こうから、かつかつという鈍い音が聞こえている。みこりんが残った豆をぶっつけているのだろう。
 面をつけたまま、玄関ドアに両手をついて、息を殺す。首筋から侵入してくる冷気が、徐々に全身へと広がって行くのを感じる。そろそろ頃合いか。面をゆっくりと外した。

 鬼は去った。面を背中に隠しながら、私は玄関ドアを開け、明るい室内へと入って行く。みこりんが問うた。「おには、もうおらん?」「うん、おらんおらん、どっかいった」面をそっと靴箱の方に隠し、証拠隠滅。なおも、じぃっとこっちを見ているみこりんのために、両手を挙げて、何もないことを示してやらねばならなかった。

 あとは各部屋に福を招き入れて、豆まきは終了した。


2003.2.4(Tue)

集中力

 午後5時半、みこりんを保育園に迎えに行く。久しぶりの定時上がりだ。まだ周囲が十分明るいのに驚く。ちょっと前なら、この時間帯は真っ暗闇だったはず。季節は着実に巡っているようだ。今日は立春。春遠からじ。

 さて、みこりんに『こどもちゃれんじ』を買ってやったのは、今回が初めてのことだった。だから、本の中身がどんなふうになっているのか、わからなかったとしても無理はない。付録で付いてきた時計の教材ばかりで遊んでいるので、試しに私が本の方をめくってみることにした。
 迷路とか、初歩的な足し算とか、いわゆる学習帳のような構成だ。みこりんの食いつきは早かった。「なにそれ!」と、すっ飛んで来ると、かぶりつくように紙面に目を凝らしている。

 パズルとか、迷路とか、謎解きの好きなみこりんは、たちどころに虜になってしまったらしい。問題文を読み、しばし考えてから、正解にシールを貼ったり、クレヨンで迷路をたどったりし始めた。最初は、私が解き方のヒントを与えなければならない場面もあったが、そのうちパターンを覚えてしまったようで、ちゃっちゃと自分だけで進めて行く。そんなに急いでやってしまわなくても…、と思いつつ、眺める私は、徐々に瞼が重くなり、そして……

 はっと気付いたときにも、みこりんは問題に取り組んでいた。しかも2冊目を、ほぼ終えつつある。月刊なのに、1日で全部片付けてしまうつもりなのか。みこりんの集中力は、時々、おそるべき威力を発揮することがある。特に今夜は機嫌がいいようで、頭の回転もいつになく早いようだ。この気分屋さんなところが、みこりんの長所でもあり、また短所でもあり。
 結局、この日、2冊の本をすべてやり終えてしまったみこりんであった。たぶん、みこりんは夏休みの学習帳(今でもこの制度があるのかどうかしらないが)を、もらったその夜のうちに全部仕上げてしまう口かもしれない。なかなか頼もしいことである。


2003.2.5(Wed)

三つ編み

 家に帰り着くなり、みこりんが自室から何やら細長いものを持ってきた。色とりどりのビニール紐を束ねたものだ。長さにしておよそ1m。
 みこりんは言った。「はしっこもって」
 言われるままに、私はその端っこを持つ。すると、じつに器用にみこりんはビニール紐を編み始めたのだった。

 三つ編みのようである。もしかすると四つ編みなのかもしれないが、私にはできない技を、みこりんはいとも簡単にやってのけている。女の子は生まれつき三つ編みができるのではないかと思ってしまうほどに、ちっこい指をきゅるきゅると動かして、高速に編んで行くのだった。よくも指がからまないものだ。

 やがて、編み編み作業は終了していた。端っこを結ぶのは私の役目。それが終ると、みこりんは三つ編みのビニール紐で、縄跳びを始めたのだった。でも、ちょっと違和感があったらしい。紐が細すぎたのだ。
 工作好きのみこりんの血が、ここでも遺憾無く発揮される。どこからか厚紙を持ち出して来ると、それをくるくると丸め、紐の両端に1つづつくっつけ始めた。グリップを付けているのだ。筒の中に紐を通し、折り返してテープで止める念の入れようだった。ぱっと見には、本物の縄跳びの縄のように見える。独自に考えたにしては、やけに動きが早かったのがちょっと気になったが、4月から年長組さんのみこりんにとっては、このくらいは朝飯前なのかもしれん。

 ただ、みこりんにとって誤算だったのは、グリップの折り返しによって、紐の長さがその分、短くなってしまい、縄跳びとしてはちょっと窮屈になってしまったことだった。なんとかして跳ぼうとするのだが、どうしても足先に紐がひっかかってしまう。そんなことを何度か繰り返したみこりんは、ついに改造に着手した。グリップの折り返しを止め、長さをかせいでテープで止めている。…が、それはちょっと強度的に無理があるような。
 自信満々で縄跳びを再開するみこりん。けれど、紐は無情にもグリップから離れて、ぼとりと落ちてしまった。

 照れ隠しなのか、妙にひきつった笑みを浮かべるみこりん。再度、グリップへの取付けを始めたが、一度はがしたテープを再利用しているため、もはや接着力はほとんど残ってはいなかった。どうするみこりん。新しい技を思い付いたかな?……だが、今夜の技はここまでだったようだ。みこりんは紐を置き、部屋の灯りを消したのだった。


2003.2.6(Thr)

懐かしのエディタ

 MIFES for Consoleがβバージョンとして公開されているので、つい、家と会社の両方で使ってみている。MIFESがまだDOS上のテキストエディタとしてVzと勢力を2分していた時代、思えば10年前くらいにはなるだろうか。とはいえ、たかが10年、されど10年。この間、マウスを主体とするGUIは、おおいに勢力範囲を広げてきたモノだ。でもLinux上では、コンソール画面で操作することは結構ある。だからこその復活なのだろう。

 Vz派だった私でも、MIFESの起動画面がどんなだったかはよく覚えている。それがそのまま現代に蘇った感じだ。まるで何かの冗談みたいに最初は思ったが、すぐに懐かしさがとってかわった。おまけに当たり前のように漢字コードを自動識別してくれる。あとはファイラーのFDが移植されれば、ずいぶんと使いやすくなるだろうに、と思う。ただ1点だけ気になったのは、ブラウザ等からのコピー&ペーストの方法が謎なこと。URL等を引用したい場合に、ちょっと不便なのでなんとかしたいのだが、たぶん解決策はありそうな予感。調査してみなくては。

 でも一番望ましいのは、秀丸が移植されることなんだが…


2003.2.7(Fri)

空き容量

 じつは先月末に120GBのHDDを増設した。とうとう買ってしまったのだ。増設直後はそれはそれは広大な空間に、満足感もひとしおだったものだが、それがはや、残り2GBにまで減っている。毎日のように20GB単位で動画を録っていれば、こうなるのは必然とも言えるのだが、だんだん容量の感覚が麻痺していくようでコワイ。
 折しも仕事で使ってるグループ内のファイルサーバも、先月、更新したばかりである。RAID5で380GB、それまで使っていたのがせいぜい10GBなので、空き領域と使用済み領域のプロパティ表示を、思わず間違えてしまったほどだ。すかすかのがらがらであった。仕事で使う分には、動画もさほど増えるわけではないので、家のような事態には陥らないと思われるが、この世界、一寸先は闇である。動画を使ったソフトウェアが当たり前になってしまってたら、380GBでもおそらく足りない。

 それはそれとして、問題は家のPCである。録ってすぐにMPEG2に変換してしまえばこんな事態には陥らなかったはずだ。でも、事はそうカンタンではなかった。インターレース解除や、MPEG2化の過程で、頻繁にエラーでアプリケーションが落ちてしまうのだ。時にはOSごとお亡くなりになるケースもある。特に1時間とか2時間などという録画時間のものを扱っている時に、よく起きるような気がする。そのせいで、スタートレック・シリーズやら、映画やらが溜まる溜まる。
 寝る前に作動させて朝起きたら終了してる、というのがもっとも望ましいパターンなのに、起きてみれば画面が凍り付いていたり、ブラックアウトしてたり、ログイン画面になってたり、脱力することしきり。そんなわけで平日はほとんど変換作業が行えぬまま、週末を迎えることになる。

 金曜の夜は、まさしく夜を徹しての変換作業につき合うことになるのであった。エラーになってもすぐに再起動して、やり直し。これでもまだまだ空き容量は稼げない。もっともっともっともっと時間が必要だった。あるいは、さらに高速な動画変換専用のマシンが必要なのかもしれん。さすがにそんな財力はもはや余ってはいないけど。

 ところで、発注している電源ユニットはいまだ届かず。納期2週間のはずだったのに、かれこれ3週間。そろそろ催促のメールを出すべきかもしれない。


2003.2.8(Sat)

“ぎゅ”

 それは、みこりんの一言から始まった。「ぎゅ」…、何かを抱きしめた音ではなく、驚きの表現でもない(それは「ぎょ」か)。「ぎゅ」とは、みこりんによれば、こういう意味なのだった。

 昨日の朝、朝食の親子丼(昨夜の残りだ)を前にして、みこりんは言った。「ぎゅ、もっとちょうだい。ぎゅ。」
 一瞬、その意味を考える時間が必要だった。1秒、2秒、3秒…、理解よりも早く、笑いの衝動がどどっと腹の奥底から湧き起こって来る。だが、ここで笑ってしまってはいかん。みこりんは結構シャイでナーバスなのだ。「あぁ、“ぐ”だね」と、あくまでもさりげなく、普通に、何事もなかったかのように具をよそうべし。

 みこりんはといえば、己の言い間違いにすぐに気が付いていた。「あ」とか言いつつ、なにやら照れくさそうに頬を紅潮させている。頃合いやよし。ここで一気に笑い飛ばそう。私は高らかに歌ってやった。

 「ふぁーみりーふぁーみりーふぁーみりーふぁーみりーふぁーみりーげーきーじょぉー」(By 『ファミリー劇場』のジングル)

 「ぎゅっぎゅぎゅぎゅっぎゅぎゅぎゅぎゅぅぅ〜」

 ファミリー劇場を知らない人にはまったく理解不能な流れだが、そのチャンネルでは番組冒頭など節目節目に、このような歌が流れるのである。そして、黄色い毛玉のようなあやしげな生物が、「ぎゅぎゅぎゅぎゅ」と、けたたましく吠え立てるのだが、これがちょうどみこりんの「ぎゅ」と語呂が合っていたので採用した。
 目を点にしていたみこりんだったが、すぐにその関連性に気が付き、笑い玉が炸裂したかのように笑い始めた。かなりツボだったらしい。顔面をひきつらせて、しんぼうたまらんといった苦悶の表情で笑い続けている。まさに思う壺であった。

 それから一日が経過してもなお、この「ぎゅ」の歌はみこりんに対して有効であった。隠れたフリしても、ひとたび「ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ〜」とやると、笑い虫をおさえられないみこりん。しばらくはこれで遊べそうな予感。


2003.2.9(Sun)

土と戯れる午後

 目覚めれば、まばゆい光に包まれていた。もう朝か…、頭を倒して横を見る。が、そこには誰もいなかった。みこりんも、Licの姿も忽然と消えていた。奇妙な静寂に支配された空間に、私は一人、取り残されてしまっていた。
 枕元の時計を、息を止めて見上げてみる。首が攣りそうだ。時計の長い針と短い針を確認。………「2時!」跳び起きていた。

 お昼もお昼、しかもこんな時に限って、いまいましいほどに天気がよい。みこりんもLicも、すっかりくつろいでリビングにいた。2月だというのに、ぽかぽかと暖かく、なんだか小春日和な昼下がり。
 日没までに残された時間は短い。高速に着替えると、昼飯をがさがさと流し込んで外に出る。青空が目に痛かった。

 Licに連れられて、みこりんが自転車で公園まで出かけていくのを見送ると、私はクルマのトランクから先週買っておいた土やら堆肥やらを運び出した。全部で6袋分、じつに燃費に悪いことをしてしまったものだ。
 花壇の中に、チューリップの発芽を確認。土の中では、すでに根っこが活動を開始しているようだ。耕すなら今日を逃してはならない。手後れになると、根っこを切ってしまうだろう。

 ナンテンを移動させたので、ぐぐっと広がった東側の花壇に、土と堆肥をどかどか投入。埋まっていた瓦礫を撤去した分、土が足りなくなっているのをこれで補う。さっくさっくとクワを振るっていると、たちまち額から首にかけて汗みどろ。たしかに今日は気温が高い。半袖でも十分なほどだった。それにしても、すっかり体がなまってしまっているらしい。ちょっと耕しただけで、腕がだるい。由々しき事態だ。こんなことでは春からの厳しい園芸生活を乗り切ることなぞ、できはしまい。
 鍛えねば。とりあえず、みこりんと一緒に縄跳びでも始めようか。

 そろそろコタツ園芸もおしまいらしい。カタログからリストアップしたものを、さらに厳選しなければならない。締め切りを過ぎてしまわぬように。


2003.2.10(Mon)

見つける方法

 子供の足は意外に侮れないものだと思うようになったのは、みこりんの冒険を昨年、目の当りにしてからだ。一度も歩いたことのない道でも、平気でどんどん進んで行ってしまう大胆さと、おそらく帰り道のことは考えていないであろう無計画さを併せ持つ子供の冒険ほど、怖いものはない。
 もしも行方不明になってしまったら、という心配は常にある。その対策として前々から欲しいと思っているアイテムはただ1つ。位置情報発信システムだ。

 業務用の位置情報管理システムに備わっているような、履歴参照機能。これを安価に提供するサービスがあれば、迷うことなく加入するのだが。もちろん自作することはできる。みこりんに位置情報を自動発信する携帯端末を持たせ、自宅のPCで受信するだけのことだ。技術的に困難なところはほとんどない。ただ1つ、通信料金の問題を除けば。
 PHSが使えるならば、定額料金制があるので都合がいいけれど、残念ながらこの付近はサービス圏外になっている。専用電波が使えない限り、携帯電話に頼るしかない。1発信30円として、1時間に6回発信、それを8時間使うと仮定すると……、1440円。これを1ヶ月継続すると、4万円を越えてしまう。現実的ではない。そこで発信条件を前回より一定以上移動したらという条件を加える可変タイプにすると、1日あたり2時間(平均6回/時間の発信として)稼動と等価になると思われ(行き帰りに要する時間が2時間という仮定)、1ヶ月で約1万円。移動距離のパラメータをいじれば、もしかすると半額の5千円程度にまでは抑えることができる、かもしれないが、1時間で約3キロ歩くだろうから、位置情報はせめて500メートル単位で欲しいところだ。となると1時間6回発信という線は譲れない。

 1万円はさすがにきつい。この半額ならば考えてもいい。となると、やはりPHSに頼るしかないのだが、サービス圏外…。こうなると、公共機関の出番である。PHSの基地局を防災ヘリ等に搭載するのだ。こうしておけば、たとえ行方不明になったとしても、人海戦術のローラー作戦を展開するよりは、はるかに効率的に発見しやすくなるに違いあるまい。ただし、この場合は位置情報の履歴が残らず、現在位置しか把握できないため、電波の届かない場所にいたりするとまったく無力になってしまう弱点がある。それでもないよりはぜんぜんいい。
 実際、このようなアイディアは、さるところで検討されてはいる。ただ機体等に搭載可能なアンテナを本気で開発するところが現われないため、頓挫中とか。もったいないことである。
 それか思いっきり妥協して、野生動物によく使ってる微弱電波を使った発振器というのでもいいかもしれない。まったくないよりは、ちょっとはマシだ。誘拐には使えないかもしれないが、雪山遭難には十分だろう。無線LANが安価になってくれば、そっちで代用してもいい。

 岡山の遭難事故は、まったく他人事ではない。好奇心旺盛なみこりんが、新たなる冒険を思い立ったとして、その時、天候の急変というアクシデントが加わったとしたら…。不運だった、では済まないのだから。


2003.2.11(Tue)

玉の名は

 例の“緑の玉の植物”だが、ついに名前が判明した。『ウミネギ』というらしい。先日届いた“春草園”のカタログに、NEWマーク付きで載っていたのである。
 掲載されている写真は、開花した状態のものだったが、まさしく我が家の“玉の植物”そのものであった。白く縁取られた緑色の小さな花(初雪草の花に似ている)、すっと伸びた葉っぱ、そしてなにより特徴的な根元の丸い緑の玉。子玉が親玉の側面にくっついている様子も、酷似している。ただ、1点だけ気になったのが開花時期だ。カタログには“初夏”とある。しかし、我が家における開花は早春だった。もっとも、品種によって多少の違いはあるだろうから、この程度は許容範囲なのかもしれない。

 ちなみにこの植物の値段は、1株800円。意外に高価なのに驚く。なにしろこの植物は、子玉が次々に湧いて来るので、増殖はかなり容易だからだ。でも、営利目的の増殖となれば、話しは別なのかもしれない。種で増やすのに比べると、いかに子玉が増殖容易とはいえ、桁が違う。おまけに子玉の生長はけっこう遅いようだ。売り物になるまで、4〜5年は要するだろう。
 この子玉で増えるというところがなかなか可愛いので、異形植物好きの人ならば、たぶん一目で気に入るのではなかろうか。冬の寒さに気を付けておけば、乾燥にもめちゃくちゃ強いし、丈夫だし、玉はどんどん大きくなるし、子玉はぽこぽこ湧いて来るし、地味なんだけど愛着を覚えてしまうこと請け合い。
 “春草園”カタログには、おもに日本の山野草系が中心に紹介されているので、その方面に興味がある人は入手してみると幸せになれるかもしれない(入手方法は、おそらく『趣味の園芸』か『園芸ガイド』に載ってる、はず)。


2003.2.12(Wed)

医療費問題

 医療費個人負担3割、結構。そんなことよりも、もっと根本的な問題があるだろうに。老人医療費に対する組合からの拠出金だ。これに手を付けずに、ただ「3割負担凍結」を叫ぶ輩は、無責任にすぎる。問題の先送りに次ぐ先送りで、もはや健康保険組合は破綻寸前だ。
 現役世代と同じくらいの金を受け取っている老人(おもに厚生年金対象者)からは、きっちり金を出してもらうべし。老人は老人同士で面倒みてもらいたい。そして拠出金をなくすのだ。これをやらないと、老人人口が若者人口を上回る勢いの日本においては、問題は悪化する一方だろう。年金に医療保険、私は裕福な老人のために、これ以上の負担はできないし、したくない。


2003.2.13(Thr)

収集

 みこりんが握り締めているのは、ミニモニの消しゴムである。形状は消しゴムにありがちな直方体だが、巻かれた紙にキャラが描かれているところがポイントらしい。そして、色と匂いにもみこりんは惹かれているようだ。
 オレンジゼリーを彷彿とさせる、ぷるるんとした透明感あふれる色彩は、ビー玉とかビーズの光沢のようだし、その香りもまた、甘いフルーツをぎゅっと搾ったかのようにみこりんを包み込んでいる。もはやみこりんは、消しゴムの虜といってもよい状況だった。昨夜は布団の中まで一緒に連れて入ったほどだ。おそらくミニモニ消しゴムの夢を見たに違いあるまいと、私は想像している。

 そして朝になり、案の定みこりんは保育園に持っていくと言った。私は黒マジックでくっきりと名前を書いてやり、持たせてやることにした。今でも子供達の間では、消しゴムの収集というのはあるのだろうか。おそらく今でも生き残ってそうな気がする。
 私の世代では、まずスーパーカー消しゴムが爆発的に流行った。わりと精巧なクルマの形状をした消しゴムは、今でいうタンク・ミュージアム等のはしりだったようにも思う。消しゴムなんだけれども、誰もその本来の用途では使っていなかったし。
 その次に記憶しているのが、ゴレンジャー等のキャラもの。現在で相当するのは、ガシャポンだろうか。…む、すると現代では消しゴムというより、別のカタチでこのような収集アイテムは展開されることの方が多かったりして?いやいや、昔も消しゴム以外につい集めたくなるモノは結構あった。王冠(スターウォーズとかスーパーカーとか)しかり、ピンバッチしかり、カードしかり…。ただ選択肢が増えただけか。

 来年みこりんが小学校に上がれば、いずれその実態が明らかとなるだろう。どんなものを集め始めるのか、今からちょっと楽しみにしているところだ。ちなみに今みこりんがコレクションしているのは、BB弾(公園で拾って来る)、紙切れ(あらゆる紙片)、何かの容器(目新しいヨーグルトがメイン)、などなど。わりと安上がりなので助かっている。


2003.2.14(Fri)

みこりんとネクタイ

 午前7時半起床。白いノースリーブのアンダーウェアの上に、薄いダークブルーのカッターシャツを着込み、ボタンを留めていると、みこりんが言った。「ヘンなふく〜!」
 鏡の前でネクタイをきゅきゅっと絞めていると、やはり不思議そうに見上げていたみこりんが「なにそれー!」と驚嘆の声を上げる。無理もない。みこりんが私のスーツ姿を見るのは非常に希なことだし、そもそもスーツへの着替えの場面をしげしげと見たのは、たぶん今朝が初めてなのだから。

 仕事場では作業服が正装のため、普段はカッターはおろかネクタイなんかしたことはない。だから、未だにネクタイを一発で適正な長さに調整するのは至難の技だ。でも、今回はみこりんの視線もあってか、一度で決まった。首への違和感もさほどない。短時間で済ませたことが幸いだった。
 さて、上着に袖を通した私に向かって、さらにみこりんは続けた。「これ、どうなってるの?」ネクタイが気になるらしい。「それ、こうやってそとにだすんじゃない?」みこりんはそう言うと、おもむろにネクタイをつかみ、上着の外側に引っ張り出してしまった。どうもみこりんは、ネクタイを幼児用のエプロンか何かと同じ用途だと思っているふしがあった。これは違うんだよと中に戻すと、みこりんはじぃっと考え込んだような雰囲気。その沈黙が気にかかる。
 それでも一応自分なりに納得したのか、みこりんはそれ以上ネクタイについて追求してくることはなかった。

 午前8時50分。私はみこりんとLicに見送られて、駅にいた。コートがちょっと場違いに感じるほどに、暖かな朝だった。

会議のあと

 会議は派手に不評に終ったが、いちいちそんなことでめげていては仕事にならない。問題点はかなり明らかなのだが、それを指摘しにくい雰囲気があるのは、さらに問題。ま、よくある光景ではある。

 とにかく今日の仕事はカタがついた。皆が一路東京駅へと向かうのとは反対に、秋葉原で降りる。通販では送料がかかるような小物類を、こういう機会に漁っておかねばもったいない。
 2時間ほどさまよった結果、ゲットしたものは、PCケース用のファンと、防振ゴム、そしてまたしてもキーボードだ。キーボードは言わずと知れた、PFUHappy Hacking Keyboard である。会社でも使っているが、私にはこれが一番しっくりくるようだ。というわけで、家のマシン用に買ったのである。特に今は小型のヤツがありがたい。家の新型PCのキーボードは、筐体の上に乗せて使っているので、マウスの置き場所が確保できることというのは絶対条件なのだった。今使ってるキーボードも、通常よりはずいぶんとミニサイズだったが、テンキーの部分がどうしてもマウスの邪魔をしていたので、新しいキーボードの登場は必然でもあった。

 19時を少し回って東京駅着。新幹線の指定はとってあったが、最悪ケースで見積もっていたので、まだ2時間も待たなければならない。指定の変更をしようにも、金曜夜の新幹線は軒並み“×”で食い込む余地なし。でもグリーン席はすべて空いている。たまにはグリーン席というのもいいかなと、長蛇の列の最後尾に並んだ。
 順番まであと5人というところで、ふいに“のぞみ”が1本だけオールグリーンで輝いているのを発見。おかしい、さっきまでなかったような気がするが…。罠だったりして、と思いつつも、私は“ひかり”のグリーン席と、“のぞみ”の普通席を天秤にかけている。出発時刻差が約30分。いずれも甲乙つけがたい。
 で、結局、“のぞみ”にした。“ひかり”のグリーン席の方が高価だったように思ったからだ。キーボードにフンパツした分、ちょっとでも安上がりなほうがいいかな、と(それなら2時間待った方がいいんだけれど、それはそれこれはこれ)。

 帰りの座席では、隣りにイギリスかアメリカからのビジネスマンと思しき男性が座っていた。本国では標準的な体形なのだろうが、日本人サイズのシートでは、いかにも窮屈そうだった。そんな巨体に圧迫されつつも、私はひたすら持参した『インフィニティ・ブルー(上巻)』(平井和正 著)を読みふける。
 もうじき名古屋というところで、ふいにその男性から「Excuse me.」と声をかけられた。む、英語か?受けてたつにはかなり心許ないが、仕方あるまい。そちらに顔を向ける。すると、彼は己の左手首のあたりを、右の指先でコツコツと叩くそぶりを示した。そのボディランゲージの意味は、考えるまでもなかった。
 私は腕時計を彼に示し、彼は目的を果たした。しかし電車で移動するのに時計なしとは、なかなか豪胆な。

 家に帰り着くと、それまで影を潜めていた睡魔がむくむくと活性化したらしい。リビングに長々と伸び、その魔力を全身で受け入れた。意識はここでふっつりと途切れる。金曜の夜は、こうしてあっけなく終了したのである。


2003.2.15(Sat)

ラーメン屋にて

 みこりんの音楽教室の帰り道、買物に立ち寄ったスーパーにて、ちょいと小腹がすいていたので軽く食べていくことにした。ランチタイムというにはかなり遅い時間帯ということもあり、喫食エリアは空席が目立つ。
 このエリアにはおよそ8軒ほどのテイクアウトの食べ物屋が店を出しているのだが、みこりんはさっそくソフトクリーム屋にLicを連れて消えて行った。私は麺類と心に決めていたので、手近なラーメン屋の前で立ち止まる。レジの横に、空のトレイが3つほど並んだままになっていた。トレイの上にはレンゲが1つずつ置いてあったが、もうずいぶん長いこと使われていないような雰囲気があった。

 メニューを選んでいる間も、レジ付近に店員が顔を出す気配はなかった。やがて品定めは終ったのだが、あいかわらず人影はない。しばらく待ってみようと思ったものの、ラーメン屋はもう1軒あったような記憶もある。ここでひたすら待つよりも、そっちにしたほうがいいようにも思えて来た。
 わずかな逡巡の後、店の前を離れようとしたときのことだ。ふいに奥の棚からぼぅっと浮き出てきたかのように、人が歩み寄ってきた。えらく背の高い、おまけに驚くほどにスリムな女性。その小ぶりな顔を間近に捉えて、私はおおいに動揺していた。

 プラチナブロンドの柔らかそうなショートカット。瞳は冬の曇り空に、少しだけブルーを混ぜたような色彩だった。なんとなく北欧系ではないかと思ったが、そんなことよりも、私が不安になったのは「日本語通じるだろうか?」ということだった。
 さびれたラーメン屋に、あまりに不似合いな彼女は、しかし、日本語にまったく不安を感じさせない物腰で、私の注文を受けてくれたのだった。

 でも出てきたラーメンの丼は、油でぎたぎた。指紋のあとべったりというものすごさ。やはりさびれているにはそれなりの理由があったのだなぁと、しみじみ思うのであった。


2003.2.16(Sun)

みこりんと自転車

 明け方から降り続いていた雨が、ようやく上がった昼下がり。買ってきたばかりの空気入れで、みこりんの自転車のタイヤを、しゅこしゅこと膨らませてやった。空気の漏れる音はしない。どうやらパンクではなかったようだ。
 さっそくみこりんが自転車にまたがり、家の前の歩道を往復しはじめた。みこりんには1つの決心があるのだ。それは、早く補助輪を外して乗れるようになること。
 坂道をしゅーっと下っては、補助輪の接地がいかに少ないかを私にアッピールしてくれている。たしかに下りのスピードがあれば、片輪だけでも大丈夫かもしれないと思わせるものがあった。でも、上りとなると話しは別だ。このあたりは山を造成して住宅地にしているため、坂道が多い。もちろん我が家の前もそうだ。みこりんはそれでも以前よりはかなり力強くペダルをこげるようになってはいたが、どうしても途中で足をつかねば上り切ることができない。補助輪をすべてとっぱらうには、みこりんの足があと3cmは伸びてからのほうがよさそうだ。

 でもずいぶんみこりんは上達した。車体の取り回し1つとってみても、以前ならば自転車に押しつぶされそうな具合だったのが、転んでもしっかりと起こすことができるようになった。補助輪の1つを取外すのは、時間の問題かもしれない。

さくらんぼの植え場所

 降り続いていた雨のせいか、花壇のところどころで窪みが見られる。耕して柔らかくしてあったためだが、このままでは春になって種をまくにも支障が出るのは必至。さっそく腐葉土をどかどかと2袋ほど投入した。計32リットル。でもまだまだ足りない。

 培養土をさらに3袋足した。これで総投入量80リットル。さくさくとシャベルで混ぜ合わせていると、みこりんが自転車練習を切り上げて庭へとやってきた。
 みこりんと一緒に土を耕し、ホーでならす。ついでにダリアの植え替えもやっておこう。ざくっと掘り起こすと、まるでサツマイモの収穫みたいに大きな球根がぞろぞろとぶら下がって来る。予想していたよりも、かなりでかい。それに数も多い。2年前に植えた時には球根1個だけだったのだが、その10倍には増殖しているようだ。
 重そうにシャベルで持上げようとしていると、みこりんがままごとセットのフライ返しを手に、反対側から支えてくれた。ほとんど役には立っていないのだけど、その好意を無駄にすることなく、移植先まで二人で運んだ。

 厳しい寒さで雑草もほとんどなく、土ばかりの花壇は、いよいよ広々として見える。みこりんはその一等地に、「さくらんぼ、うえたい」と言う。しかも今年、実がなるやつ。種から育てたら実がなるのは中学生になったころだよと、みこりんに言ったのを受けてのことだ。
 いきなり実がなるほどの大きな苗は、かなり高価なのだが、それでもみこりんと一緒に果実摘みができるのもあと数年かと思うと、買っといてもいいかな、なんて思う今日この頃である。でも、みこりんは中学生になっても、一緒に庭で果実摘みしてくれそうな予感も少し…


2003.2.17(Mon)

あの季節

 近頃なんだか偏頭痛がして喉が痛い。おまけに背中やら首筋の節々にも、きりきりと鉛をねじこまれるような痛みがある。鼻や頬もむずむずかゆかゆ、そして極めつけは目玉の痒さ。まぶたが意に反してぴくぴくしてしまうほどの、違和感がある。
 ついに来たのか、あの季節が。おそるべき、花粉の季節が。

 同じく花粉症持ちのLicには、しかし、さほど変化は出ていないのだという。なんとしたことか。私の症状が年々酷くなってきているのではという怖い予感に、Licが追い討ちをかける。晴れた日に、布団を干してあげようというのだ。
 あれはまだ、私が花粉とは無縁な平和な生活をおくっていた5年ほど昔のこと。うららかな春の日差しに誘われて、私はついうっかりと布団を盛大に干したのだ。その夜、Licは眠れなかったという。布団にびっしりと張り付いた花粉は、まさに目に見えぬ悪鬼と化したのであった。

 Licの物覚えはとてもよい。あの夜のことは、くっきりと記憶に刻まれ消えることはないのであろう。私もまた、春のふかふかお日様の匂いに包まれて眠ることは、できなくなってしまった。
 まさか花粉にしてやられるとは…、そこはかとなく悔しい今日このごろ。


2003.2.18(Tue)

懐かしきマクロス

 『マクロス・ゼロ 1巻』を観た。冒頭の独白に、なぜか『王立宇宙軍』の冒頭を思い出してしまう。独白の雰囲気がちょっと似ているような気がしたのだ。
 そして空中戦。CGによる機体の描写や、実戦シーンを参考にしたであろうリアルなカメラワークは、なかなかのものだと思う。が、個人的には『マクロス・プラス』における空中戦の描き方の方が趣味に合っているようだ。重量感とか加速度描写のデフォルメ具合の違いが、そう思わせるのだろう。
 しかしまぁそんなことよりも、フォッカー少佐登場の懐かしさに、すべてを許可してしまいたくなる。加えて尾翼に描かれたスカル小隊のエンブレムと共に登場するゼロの姿、そして、これでもかとじっくり見せるバトロイドへの変形シーン。ツボ突かれまくりである。
 まんまと製作側の思う壺にはまったような気もするが、こいつはDVD買ってもいいかもしれない。いや、きっと買うだろう。
 2巻が出るのが2003年春3月……、待ち遠しい。


2003.2.19(Wed)

お昼寝布団

 迎えのクルマの中で、すでに寝入ってしまっていたみこりんを、そのままリビングのお昼寝用布団で寝かせていた。私の帰りが遅くなってからというもの、みこりんと触れ合えるのは、朝のわずかなひとときになってしまってなんだか物足りない。それゆえに、こうして私が眠るまでの時間、みこりんを寝室ではなくリビングで寝かしているというわけである。

 すやすやと安らかな寝息をたてて眠りこけるみこりんの表情を見ていると、心が和む。あらゆる厄介後、悩み事の類が、この時ばかりは私の中から消滅するかのようだ。たぶん、こんな時の私の顔は、緊張がゆるみまくったほにゃほにゃなことになってるんじゃないかと思う。
 とその時、突然みこりんが起き上がった。毛布にくるまったままの状態で、ぺたりんと座り込んでいるような感じ。顔が隠れてしまっているので、何が起きたのか把握できないが、泣いてないところをみると、怖い夢を見ていたのではなさそうだ。

 両手で毛布をかきわけ、ひょいと顔を覗かせたみこりんは、ここが家の中であることと、そばに私とLicがいることを確認したようである。そして、一言も発することなく、そのまま崩れ落ちるように、再び眠りの中に落ちて行ってしまった。…なんて器用な。

 そろそろお昼寝用布団から、足がはみ出すようになってきたみこりん。新しいお昼寝用布団を買ってやらねばなるまい。


2003.2.20(Thr)

独裁者

 ヒトラーのごとき独裁者の台頭を許したのは、適切な軍事介入に批判的だった当時の欧州の平和主義にあった…。というような文章を、以前どこかで読んだ記憶がある。これがそのままイラクに結びつくとは思わないが、必要な軍事力を適切なタイミングで行使することの重要性までが否定されてはかなわない。もっとも、今回の米軍による戦争準備は、別の意図がかなり露骨に見え隠れするため、適切な実力行使に当てはまるかといえば疑問ではあるのだが。私にとってはイラクよりも、北朝鮮の方がリアルな現実である。

 あの国が自己崩壊するのを待つ間に、いったいどれほどの子供達が飢えと暴力で死んでいくのか、想像するのも恐ろしい。無事に脱出できた人はラッキーで、囲われたままの人は不幸、という状況はあまりに不公平ではないか。独裁者を倒す国内勢力が育つのを待つのか、それとも独裁者を外力によって倒すか、我々は選択すべき時期ではないのだろうか。イラクにかかずらわっているよりも、大事なことのように思う。核ミサイルを複数配備されてからでは、手後れになってしまう。そんな予感が強くするのである。

 それにしても今夜久しぶりに、ニュース映像で社民党の党首ががなりたてているのを見たが、拉致問題への対応について適切な反省もできない輩が何を偉そうに、との思いを強くする。さすがに面の皮の厚さはハンパではないらしい。


2003.2.21(Fri)

新しいエンコーダ

 我が家で使っているMPEG2エンコーダは、カスタム・テクノロジー社製の『mpEGG! DVD Encoder』である。画質は満足できるレベルだが、シーンチェンジの検出がいまいち甘いのが玉に傷。でも、そんな問題も来月になれば解消する。後継品が登場するのだ。

 『CINEMA CRAFT ENCODER Basic』が、それである。体験版を試したところ、2PASS固定ビットレートでシーンチェンジ検出はほぼ問題なく実行された。2PASSなので変換時間が長くなるのはちょっと痛いが、致し方あるまい。可変ビットレートに対応しているのもありがたい。これでダウンロード版の販売価格は5,800円。今使ってるやつの約半分の値段だ。高性能化して低価格。なんて太っ腹な。
 販売開始日は3月7日。待ち遠しいものよ。


2003.2.22(Sat)

紙飛行機

 弱々しい雨が、ずっと降り続いている。みこりんは先ほどから、“こどもチャレンジ”についてきた紙飛行機の製作に余念がない。型ヌキの要領で機体を紙から抜いているのだが、細かな作業なので“びりっ”といってしまうこともある。それがだんだん気になり始めたのか、ついに私に「やって」と持ってきた。
 3機あるうちの、残り2機分を抜いてやり、一緒に折る。山折り、谷折りを示す、実線と一点鎖線が懐かしい。
 輪ゴムを機首下方のフックに引っかけ、その収縮力で加速度を与えるタイプの紙飛行機だった。これもまたじつに懐かしい。みこりんは輪ゴムをくっつけた持ち手と、機体をそれぞれ手にして、どうやって飛ばしたものかと思案しているようす。最初は反対方向にゴムを引っかけたりしてみていたが、すぐに仕組みを理解したようだった。正しくゴムを引っかけ、びょ〜んとスタンバイ。機体を持つ手をゆるりと離すと、ひょろろろっと滑空して、機首を下にして落ちていった。
 こっちを振り向き、「にかっ」と笑う。折り紙の紙飛行機よりも、みこりんのツボにはまったらしい。さっそく二人で飛ばし合戦が始まった。

 リビング内なので、あんまり勢いつけて飛ばすわけにはいかない。それに壁面の一角を占めている水槽には蓋が半分しかついてないので、水中に落下しても大変だ。手加減して、そっと飛ばしてやったのだが、それでもみこりんの目には素晴らしい飛行に映ったようだ。なぜそんなに上手に飛ばせるのかと、何度も聞かれてしまった。
 そうこうするうち、みこりんも私のやってるのを見てコツをつかんだのだろう。最初のへろへろなのが嘘のように、ものすごい勢いで反対側の壁に向かってすっ飛んでいく。なかなかよい飛行だ。型紙がよく出来ていたというべきかもしれないが、明らかに部屋の中では狭すぎだ。どこかだだっぴろい野っ原で、思う存分飛ばせることができれば、さぞや面白かろうに。そうすれば、これを機会にみこりんは宇宙飛行士を目指すかもしれん。

 時はすでに夕刻。急速に闇に覆われつつある庭は、まだ降り止まぬ雨で濡れそぼっていた。


2003.2.23(Sun)

花壇修復

 ぽかぽか陽気の昼下がり、私は花壇の修復を行っていた。この付近一帯で続いている下水道工事の影響で、突然何の前触れもなく、庭の一角が掘り起こされ、そしてまた埋め戻されていたのだ。
 ちょうど花壇の真下に下水管が埋まっていたのが運の尽き。長年植えっぱなしで群生させてきた水仙の球根が、ひどいありさまになっていた。しかも足で踏んだあともある。にょきっと生え揃いつつあった芽が、ぐにゃりとゆがんでいた。

 土の表面に露出している根っこを埋め戻し、傾いた球根を立て直す。足で踏み抜いたような穴には、培養土を足しておいた。これで無事に花を咲かせてくれるとよいのだが、球根の根っこは折れたら再生しないとか聞いたような気もするので、心配だ。
 花壇が終ると、煉瓦敷きの修復である。工事業者も、一応は元に戻そうとしたらしいが、仕事はぜんぜん雑だった。煉瓦を抜いて、土を足し、固めて固めて高さを合せて、敷き直す。しかし事前に一言予告しておいてくれれば、自分でいいようにどかしておいたものを、なぜに無断で掘り起こしたのか。無論、この惨状を発見した当日に、工事業者の責任者にはきっちりクレームの電話を入れてあるが、植物に対する愛のなさを非難した私の言葉は、たぶん正しく伝わってはいない。普通、クレームを入れられたら何らかのリアクションがあってしかるべきなのに、まったく音沙汰がないのだから。

 およそ2時間ほどで、花壇の修復は完了した。完全には元に戻らなかったが、球根の方は、また秋にでも並べ直そうと思う。
 花桃の枝に、小さく膨らんだ花芽を無数に見つけた。これから一ヶ月かけて、ゆっくりゆっくり大きくなってくる桃の花。もう雪は降りそうにないようだ。

物覚え

 みこりんが何かとてつもないことを言ったのだが、それがなんだったのか思い出せずにいる。幼児のものとは思えないような素晴らしい洞察力だったので、これは絶対に覚えておかねばと思っていたのに…、なんてこった。

 できることならば記憶を巻き戻したい。そう痛切に思う。みこりんは明日にはさらに進化した存在となっているだろう。日々、新しい発見を私にももたらしてくれる。その過程をすべて記憶しておきたいが、なんだか最近、物忘れが激しくなったような気が。これも花粉症の影響だろうか(ないと思うけど)。


2003.2.24(Mon)

行方不明対策

 “SOK、携帯端末を使った個人向けセキュリティサービス

 月額880円というのが、なかなか興味を引かれるところだ。操作も簡単そうだし、これならみこりんでもすぐに使えるだろう。ただ問題は、携帯電話のパケット通信網を利用している(らしい)ことから、位置情報を確認するたびに料金が発生することと、圏外では役に立たないこと。我が家の周辺でも、いまだ携帯電話が圏外になってしまう箇所はわりとある。こうした場合には、位置情報の履歴がモノを言うのだが、かといって常に位置情報確認なぞしようものなら、毎回課金されてえらいことになってしまう。それに、もしもこの装置を作動させ得ない状況に陥ってしまったらどうか。などなど、自動で位置情報を収集できないシステムであるがゆえの欠点は多い。

 でもまぁ、ないよりはマシかもしれない。月々880円だし。みこりん用に検討してみてもいいかなと、思っているところだ。


2003.2.25(Tue)

お手伝いの芽

 ここ2日ほど、朝起きたみこりんが、やってくれるようになったことがある。これまでにない行いに、昨日その様子を初めて見たときには、我が目を疑ってしまったほどだ。その行為とは、“ウズラのケージカバー外し”である。

 私やLicが何か指示したわけではないので、みこりんが自発的にやりはじめたものと思われる。ついにみこりんも、このウズラ達が自分のペットであるという自覚を持つようになってくれたのだろうか。だとすれば、なかなか将来有望である。なにしろウズラは10年は生きるらしいので、みこりんが高校生になってからもまだ健在である可能性は高い。日々の世話をみこりんがやってくれるならば、大助かりだ。
 とはいえ、あまり過剰な期待もよくあるまい。さりげなく誉めつつ、定着するのを待つとしよう。


2003.2.26(Wed)

グレープフルーツの食し方

 さて、グレープフルーツをどうやって食べるかといえば、おそらく輪切りにしたやつをスプーンでほじるというのが一般的かと思う。今宵の我が家のデザートも、そのスタイルを踏襲したものだった。

 最初みこりんはティスプーンでほじっていたのだが、かなり苦戦を強いられた様子。私がキウイフルーツ専用のスプーンで軽快にほじりはじめると、それをうらやましそうに眺めていた。キウイフルーツ専用のスプーンは、先端がかなり鋭角になっているので、突き刺しやすいのだ。
 みこりんはスプーンを交換してほしそうだったが、なかなか自分からは直接的な表現で言い出してこない。そのかわり、遠回しに「みこりんのなかなかほじれなーい」とか「とーさんのほじりやすそう〜」とか言ってくる。そのままだと、私が食べおわるまでずっと同じ事を繰り返しそうだったので、交換してやることにした。

 でも、スプーンを代えてもみこりんの力では、まだまだ果肉を皮から引き剥がすのは難しいらしい。そこで普通のミカンのように、皮を剥いて、薄皮ごと食べる方法を提案してみたのだが、みこりんは輪切りをスプーンでほじるのがいいのだと言い張った。私はどっちかというとスプーンでほじるよりも、薄皮ごと食べる方が好きなのだが、まぁみこりんがいいというなら無理にとはいうまい。

 残った皮と種を見て、この種を庭にまいたらグレープフルーツの木が生えてくるんだろうか…、と、ぼんやりと考えてみたり。試してみても面白いかもしれない。


2003.2.27(Thr)

スパイウェア

 Webブラウザを起動するとなにやら怪しげなページが自動的に開くとか、突然開くはずのない警告ダイアログが出て来るとか、不審な挙動を示すようになった我が家の新型PCのために、スパイウェア検出除去ツール『Spybot - Search & Destroy』を実行してみることにした(参考:“スパイウェアから身を守る方法”)。

 検索すること十数秒。ずらずらっと並んだスパイウェア候補は、約2種類。うち1種類は、かなりの数のファイルがリストアップされていた。やはり潜んでいたのか、スパイウェア。
 さっそく除去しておいたが、まったく油断も隙もない。

 スパイウェアツールを常駐させておきたいが、動画変換中は極力常駐モノを外すのが吉なので、必要に応じて起動させるしかあるまい。侵入経路としてもっともアヤシイのがインターネット経由だから(ソフトウェアのインストール時もわりとあぶない)、いずれこういう機能はWebブラウザに統合されていきそうな気もするが(ポップアップ広告ブロック機能のように)、それまでは専用のツールで防衛しようと思う。


2003.2.28(Fri)

はるか彼方へ

 2日前のことになるが、パイオニア10号からの信号が途絶えたという記事を見た(参考:“パイオニア10号から最後の信号が届いた”)。じつに懐かしい名前に、記憶は一気に少年時代へと巻き戻る。当時はヴォイジャーやらパイオニアやら、外惑星探査機が次々と木星の衛星やら土星の衛星やらを発見していて、図鑑の情報があっというまに色褪せて行くような状況だった(参考:“惑星科学のための宇宙探査機”)。パイオニア10号に搭載されたプレートのことも、科学雑誌で読み、なぜだかこれを悪い宇宙人が解読してしまって攻めてくるなんて想像をしたことを憶えている。

 地球からはるか120億キロの彼方を、いまも飛び続けるパイオニア10号のことは、もはやイメージするのも困難なほどに遠くなった。遠すぎて、想像の範疇を越えてしまっている。その電子の“目”がいったいどんな宇宙の姿を捉えていたのかという興味は尽きないが、それよりもよくも今日まで生き続けたものだという思いの方が強い。なんという耐久性、おそるべき根性。
 いつか超光速航行が可能な宇宙船が開発された暁には、パイオニア10号の消息を確かめてもらいたいものである。その時、人類がパイオニア10号内部で、あやしげな未知のテクノロジーで改造された電子回路を目にしたりすると、さらに面白いのだが、こればかりは私の存命中には無理っぽい。たぶんみこりんの時代でも難しいだろう。その子の子の子くらいなら、もしかして…。できればパイオニア10号がはるか宇宙の彼方で、知的生命体のコロニーを直撃したりしませんように。まぁそんな確率は限りなくゼロに近いだろうけど。なんとなく“縁”を感じざるを得ないのである。


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