2004.7.4(Sun)

拾いもの

 朝から団地の側溝掃除があるので、みこりんと共に出陣した。今回我々の任務は、ゴミ袋にゴミを可能な限り収集してくることだ。このゴミ袋は、市役所が配布しているボランティア袋といい、可燃物も不燃物も一緒くたにしてもよいのである。拾う方にしてみればじつにありがたいゴミ袋だが、あとの処理がどうなっているのか考えると、なかなか悩ましい。もしかして、全部不燃物として埋め立てられてたりは…

 まぁそれはともかく、火バサミ片手に収集開始。空き缶やら菓子のパッケージやらなにかよくわからないホースやらサンダルやらが、出てくる出てくる。みこりんもゴミ拾いはけっこう好きならしく、めざとく小さいゴミをよく見つけてくれた。
 ぐるっと付近を周回して、ほどよく袋がぱんぱんになったところで、巡回してきたゴミ収集車に袋を渡して、任務完了。よい汗をかいた。

 家に向かって歩いていると、山裾の落ち葉を掃き掃除していた人から、みこりんにプレゼントがあった。カブトムシである。しかもオス。落ち葉に混ざっていたところを発見したとのこと。カブトムシを飼いたかったみこりんは、とても喜んでいた。

 去年からずっとそのままにしてあるクワガタ&カブト飼育セットに、持ち帰ったカブトムシを入れてやった。昆虫ゼリーも余っていたので、さっそく入れてみたりして眺めていたのだが、なんだか様子がおかしい。さっきまで元気そうにわしゃわしゃ動いていたカブトムシが、急に止まってしまったのだ。むむむ?

 一時間後、カブトムシは天に召された。落胆するみこりん。この夏、庭の木でカブトムシを捕まえよう作戦を、実行に移す時が来たようである。

復活

 さて、横倒しになったままのプラムの木を、どうにかせねばならない。こちらはLicと一緒に買ってきた木なので、愛着も他の木よりは深い。だから、できるならば切断というのは避けたい。なんとか起こしてみようと、木の下に潜り込み、幹に肩をあてて、「ぐぅ」みりみりと筋肉が痛む。さらに腰を入れて、ぐぐぐっと全身の力を木に加えてやると、ようやく重そうに木は動き始めたのだった。
 しかし、角度にして60度くらい起こしたところで動きは止まる。やはり一人ではこれが限界か。みこりんは、「ふたりでやったらおきるかも」と、木の下の方に潜っていって、私と同じように押してみてくれるのだが、もちろんそんなことで木はびくともしない。というわけで、Licを呼んでくることにした。

 私が押し、Licが反対側から引っ張る役。ぬぉぉぉぉぉ!!
 よっしゃ動いた。木は、しゃきっと立った。
 立ったが、Licが手を放せば、とたんに巨大な質量が私の肩にのしかかってくる。とても一人では支えきれなかった。「切って」とLicが言った。

 じつはこの木、根元付近で二股に分かれていて、どっちも相当な枝をつけているため、余計に重くなっているのだ。そこで、どっちか片方を切ることにした。そうすれば質量は半分になる。
 Licが自らノコギリを持ち、その刃を幹に近づけ、一気にいった。おぉ、なんと大胆な。でも、残しておいて欲しい枝もちょっとはあったりするので、やっぱり私が代わって切ることにする。敷地外に伸びたやつを重点的に、切った。その他、実のなる方の枝に邪魔になってるのとか、あっち切りこっち切りしているうちに、ずいぶんとスマートになってきた。切った枝はとりあえず雑草&剪定屑置き場に積んでおくとして…。それにしてもすごい量だ。処分方法を考えるだけで頭が痛い。

 幹に肩を入れ、押してみた。さっきとは雲泥の差である。余裕だった。いける、これならいけるぞ。と、かつて白花ニセアカシアを支えていた杭を2本持ってきてプラムの根元に打ち込む。あとはこの杭に縛れば出来上がりだ。

 横倒しだったプラムの木は、こうして復活を遂げたのである。


2004.7.6(Tue)

夕立

 みこりんが家でも七夕飾りをしたいというので、短冊セットを買ってきた。二人して願い事を短冊に書き、銀紙で出来た星とか、折り紙で作った輪っかや、網に切ったりしたものを、笹に結びつけてゆく。

 完成した七夕飾りを、ウッドデッキの支柱に結わえた。空は青空、明日の天気は晴れるかな?と思わせたのもつかの間、ひどい土砂降りと吹き荒れる風。一変した天候に、作ったばかりの七夕飾りは、もみくちゃにされている。1つ、また1つと吹き飛ばされてゆく七夕飾り。なんだか願い事まで消え去りそうで、寂しいものがある。

 過ぎ去った夕立のあと、庭に散らばった七夕飾りを、再度、笹に結びつけておいた。明日は晴れますように。でも、毎年、7月の七夕って雨か曇りのような…


2004.7.16(Fri)

侵入者

 夕食後のひととき、遠くから届いてくる低い雷鳴に、気が付いた。ここのところ、雷が多い。ざざっと一雨来るのではないかと思いつつ、みこりんの歯磨きの仕上げをする。
 リビングに隣接するウッドデッキ方面から、ばたばたと激しく暴れる物音が、雷鳴に呼応するかのように聞こえてきた。うずらの“ぴーちゃん”と“さっちゃん”が、雷に驚いて暴れているのだろう。その時は、そんなふうにしか考えていなかった。やがて静かになったウズラ達に安心して、私はみこりんと共に2階の寝室へと入ったのである。みこりんは、まだ一人では寝られない。そこで、寝入るまで私が添い寝することになっているのだった。

 灯りを落とした寝室で、みこりんはほどなく眠りの中へと入っていったようだ。私も、しばしこの静寂に全身をゆだねてみる。頭の中では、ランダムに過去のイメージが現れては消えていった。まるで、閉じた瞼の向こうに仮想的に張られたスクリーンがあるかのように、イメージを鑑賞している自分がいる。
 部屋の中には、エアコンの作動音が低く漂っている他に、音はない。今宵は虫達も静寂を楽しんでいるかのように、ひっそりと時間だけが過ぎてゆく。

 カタリ

 その音が聞こえた瞬間、私の五感は一瞬にして覚醒した。外からだ。木の板を踏んだ時に発する音。『完璧な防壁』と、玄関側をつなぐ煉瓦敷きの通路には、ところどころ木で出来たブロックをはめ込んである。その板が、今、何ものかによって踏まれたのだ。
 私は急いで階下へと降り、高輝度LEDの懐中電灯を掴んだ。調べなくてはならない。敵が何なのか。『完璧な防壁』への侵入を許したのかどうか。
 玄関方面へと向かう私に、Licが言った。「そういえば、さっきもぴーちゃん達が暴れてたようだけど…」

 すでに敵は侵入したのではないか。ダッシュでリビングを抜け、ウッドデッキへと向かった。高輝度LEDの独特の青白い光が、ウズラ達のケージを照らす。影。何か大きな生き物の影が、光の中をよぎっていった。咄嗟に「猫か」と思った。網戸を開け、その影が消えた方向へ、光を向けると…

 猫ではなかった。猫よりも数倍は大きな生物が、ウッドデッキの端っこで毛繕いをしていた。目の回りが黒く、体毛は明るいグレー。「アライグマだ!」と私は叫んでいた。

 アライグマは、人を恐れることなく、呑気に毛繕いに余念がない。私は胸の奥底が急に凍り付いたような悪寒を覚えた。ぴーちゃんとさっちゃんが、いつもなら大暴れするはずなのに、やけに静かなのである。光をウズラ達のケージに戻す。
 「あぁ」なんてこった。さっちゃんの死体があった。ぴーちゃんの姿はどこにもない。ケージの隙間は1.5cm。通常ならこの隙間をウズラは抜けることはできない。しかし、そのケージからぴーちゃんの姿が消えている。アライグマに無理矢理引き出されて食われたのだ。そう気が付いた瞬間、私の心は自分でも恐いくらいにざわついた。

 さっちゃんの死体もどこか妙だった。あるはずの場所に、それがない。頭がなくなってしまっているのだった。両の翼も根元から引きちぎられているのが、ここからでも見える。両脚はその激痛を裏付けるように、ぴんと後方に伸ばされていた。

 アライグマは、毛繕いを終えると、ウッドデッキの下に消えていった。でも、ほどなく戻ってきて、また毛繕いを始める。腹が膨れて満足しているのだろう…。
 ゆるさん。ゆるさんぞ、アライグマっ。

 絶対にこの庭から逃がしてはならない。『完璧な防壁』のどこからヤツは侵入したのか。たぶん、逃げるとしたらそこからだろう。敵の退路を断たねばならぬ。しかし、アライグマは凶暴である。人が素手でどうにかできるものではない。目の前で、頭と翼を食いちぎられた死体を見ているだけに、迂闊なことはできなかった。
 Licに警察に電話するように言った。取り押さえるには、人は多い方がいい。警察が到着するまで、ここでヤツを見張っていよう。

 アライグマはウッドデッキの下が気に入ったのか、潜り込んだまま、姿を現さなくなった。私は地面に這いつくばり、懐中電灯の光を隅々に向けてヤツを探した。高輝度LED1つだけの小型懐中電灯では、どうしても光量が足らず、奥の方がよく見えない。伸びた前髪が目にかかってくるのも、いちいち鬱陶しい。思わず前髪を引きちぎりたい衝動に駆られた。ヤツはどこにいるのか。ウッドデッキ下の土台の隙間を、角度を変えて何度も照らす。

 ようやく動きがあった。ヤツは私がいる場所から一番離れた地点に隠れていた。かろうじて尻尾だけが見えている。私は光を常に当て続け、二度と見失わないように努めた。
 突如、その尻尾が消えてなくなった。花壇の木々がざわつく音がする。ヤツが逃げる。私は立ち上がり、音のする方向へとダッシュした。植え込みが揺れ、敵が『完璧な防壁』に阻まれて壁際を逃走しているのを見て取った。だが、その先には先月の台風で大きく外側に傾いた部分がある。ヤツがジャンプし、そこにたどり着いたのを見たとき、私はたてかけてあったシャベルをつかむと、植え込みの中へと分け入った。逃がすものか。

 『完璧な防壁』に使われているネットは、高さが2mある。傾いているとはいえ、そう簡単に脱出できるものではない。ネットにしがみつくアライグマ。動きが止まった今がチャンス。「往生せいやー!」右手に渾身の力を込めて、シャベルを振り下ろす私。
 一撃必殺を狙った攻撃は、しかし、ヤツには届かなかった。なんとヤツはその自重によって、ネットを大きくたわませ、ごろりんと向こう側に落ちていってしまったのだ。シャベルは、敵のいた場所を過ぎ、フェンスに当たって激しい音を立てていた。逃がしたかっ。どっちの方向に逃げたか確認するため、庭から玄関へと続く木戸を抜け、表の道路へと出た。
 いない。どこにもヤツの姿は見えなかった。先に道路に出ていたLicの証言によれば、道路を渡った気配はないとのこと。ヤツは隣家の庭へと逃げ込んだに違いあるまい。

 シャベルをつかんだまま庭へと戻る。もう一度、ウズラのケージを確認してみた。息絶えたさっちゃんの姿、そして、いなくなったぴーちゃんが引きずり出されたとおぼしき場所に残った血痕を、ぼんやりと見つめていた。今日の朝、餌をやった時の様子が明確に思い出され、今の状況をリアルに受け入れることができなかった。

 やがてパトカーが到着した。警官に事の状況を説明する。しかし、元凶のアライグマが消えた今となっては、どうしようもなかった。一応ウズラ2羽が殺されたということで、書類は作成してみるとのこと。あとは保健所に連絡して捕獲してもらうのがよいと、アドバイスをもらう。
 パトカーは去っていった。
 木戸をくぐり、庭へと戻った私の目の前に、あり得ない光景があった。ヤツがいたのだ。ウッドデッキ下から、ひょいと顔を出し、こっちを見ている。馬鹿な。ヤツは逃げたはずだ。どうやって戻ってきたのか。
 Licに再度、警察に連絡を入れるよう言った頃、アライグマは再び逃走を開始していた。『完璧な防壁』に沿ってぐるりと木戸のところまで来たヤツは、猫よりも身軽にひょいひょいとフェンスを上ってゆく。逃がすものかとシャベルを振り下ろすも、ことごとくかわされ、ついにヤツはフェンスからガレージの屋根の上にまで逃げ切ることに成功していた。この動き、とても猫の比ではない。猫を想定した『完璧な防壁』では、アライグマに対処できないのだ。
 ガレージの屋根の上から、玄関側の桃の木にジャンプしたヤツは、そのまま木をすべり下り、夜の闇へと消えていく。私は、ただ呆然とそれを眺めるしかできなかった。

 さっきのパトカーが戻ってきた。が、今度もアライグマに逃げられたあとなので、どうにもならない。この騒動でLicが近所の人から新情報を持ってきた。アライグマは2匹いるというのだ。ならば合点がゆく。最初から2匹でウズラを襲ったに違いない。

 *

 リビングには、2階で寝ていたはずのみこりんの姿があった。みこりんなりに、何かを察知し、不安に思って下りてきたのだろう。みこりんが買ってきた、あの小さい小さい雛だったウズラ達は、寿命を全うすることなく、食い殺されてしまった。みこりんには、ウズラがアライグマに殺されたという事実だけを伝えた。殺害現場に残るさっちゃんの惨殺死体は、みこりんの目に触れる前に、花壇のコニファーの根元に埋めた。穴を掘る乾いた音が、夜の静寂を破り、その音をみこりんはリビングで聞いていたという。

 みこりんと寝室へ戻る。惨殺の瞬間の映像が、何度も何度も脳裏をよぎり、私の心は悲鳴を上げていた。


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